EV普及の裏で何が起きているのか? 豪州鉱山を揺るがすSNS採用――EVサプライチェーン不安定化の深層とは

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EV普及の裏で、資源供給の最前線が揺れている。豪州では年収1700万円超でも人手不足が解消せず、SNS経由の即席採用が拡大。再生数1億回超の「#Fifo」バズが、鉱山労働とEVサプライチェーンに新たな不安定性をもたらしている。

EV時代が押し上げる重要鉱物需要

鉱山イメージ(画像:Pexels)
鉱山イメージ(画像:Pexels)

 世界的に電気自動車(EV)への移行は緩やかなペースで進んでいる。一方で、EVに使われる鉱物資源の需要は確実に拡大している。車載電池やモーターには、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、黒鉛などが不可欠だ。EV普及の裏側で、資源確保の重要性は一段と高まっている。

 重要鉱物を豊富に抱える国のひとつがオーストラリアである。同国では国土の約8割が鉱区指定可能地域とされる。鉄鉱石や石炭、天然ガスといった従来資源に加え、近年は重要鉱物の供給国として存在感を強めている。鉱業はオーストラリア経済を支える基幹産業であり、GDPの約1割を占める。輸出額ベースでは全体の約半分を稼ぎ出す。

 なかでも西オーストラリア州は、世界有数の資源集積地として知られる。大手資源メジャーが大規模鉱山を運営し、安定的な生産体制を築いてきた。主な輸出先は

・中国
・日本
・韓国
・インド

などのアジア諸国である。鉱業は州経済の雇用と財政を支える柱でもある。

 ただし、採掘現場では深刻な人手不足が続いている。2021年時点で、西オーストラリア州の鉱業部門は約4万人の熟練労働者が不足していた。新型コロナウイルスの影響が加わり、労働需給はさらにひっ迫した。各社は採用を加速させ、賃金水準も上昇した。2021年以降、平均年収は約2割増え、2025年5月には日本円換算で1700万円を超えている。

 背景には資源需要の構造変化がある。中国の鉄鉱石需要の拡大に加え、EV用バッテリー向けのリチウム需要が急増した。これにともない、新たな鉱山プロジェクトが相次いで立ち上がっている。需要環境が転換したことで、採掘人材の位置づけも変わった。時間をかけて育成する対象から、

「即座に確保すべき経営資源」

へと認識が切り替わっているのだ。

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