高級車を飾った「名脇役」いずこへ? ボディ一体成形が変えた自動車デザインの常識
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サイドモール装着車の減少

かつて多くのセダンや高級車のボディサイドを飾っていたサイドモール(車体側面に取り付けられる装飾・保護用の細長いパーツ)だが、近年の自動車市場ではその姿を目にする機会がめっきり減った。
そもそもサイドモールの役割は、大きく分けてふたつに集約される。第一の役割は車体の保護である。狭い駐車場や路上駐車の際にドアを開けて壁や隣の車に接触してしまった場合、サイドモールが衝撃を吸収することでドアパネル本体への傷や凹みを防ぐ。板金修理や再塗装には通常数万円以上の費用がかかるが、モールであれば交換や部分補修で済む場合がある。この点は、都市部の限られた駐車スペースや日常の取り回しが重要視される現代の環境において、一定の実用的価値を持つ。
第二の役割はデザイン面での効果だ。特に1990年代から2000年代初頭にかけて、セダンや大型車のボディは平坦でのっぺりとした印象になりがちだったが、サイドモールを装着することでボディに起伏を生み、視覚的な抑揚を与えていた。当時の高級車では、モールの素材や形状、クロームやラバー仕上げなどが高級感の演出に活用され、ブランドの個性を際立たせる重要な要素になっていた。
また、消費者の嗜好やライフスタイルの変化も装着率の低下に影響している。近年はコンパクトカーやスポーツタイプ多目的車(SUV)の比率が高まり、車両サイズや所有期間の短期化にともない、サイドモールによる装飾や保護の必要性が相対的に下がっている。さらに、ブランド戦略も変化し、高級車では外装の装飾よりも安全装備や最新技術で差別化する傾向が強まっている。
サイドモールの起源は諸説あるが、1960年代後半のメルセデス・ベンツの一部モデルでは、従来の装飾的なクロームモールにゴムやプラスチックの保護機能を組み合わせたサイドトリムが採用されていた。このように、サイドモールは装飾だけでなく車体保護や衝撃吸収を重視した設計の一例であり、当時の技術とデザインの狭間で重要な役割を果たしていたのである。