トヨタの禁断領域? レクサスLS「6輪ミニバン」はF1以来の挑戦なのか――車両規格も揺るがす「富裕層モビリティ」の再定義

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2025年10月、トヨタは5ブランド戦略を発表。レクサスLSは6輪ミニバンに転換し、後席快適性や走行安定性を高めつつ富裕層向け移動体験を再定義。象徴性と実用性の両立が試される挑戦である。

課題としての車重増

トヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)
トヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

 レクサスLSが採用する6輪構造は、ショーファーカーとして現実的な解となり得る。メリットとして、走行安定性や高速走行時の直進安定性の向上が挙げられる。

 特に多くのバッテリーを車両下部に搭載する電気自動車(EV)では、横滑り抑制や制動力強化に有利に働く。ホイールベースの拡張により積載効率も向上し、後部座席の居住スペースも広がるため、ショーファーカーとしての快適性が確保される。さらに、後輪独立制御による高精度トルク配分システムを導入すれば、悪路でも高い走破性を実現でき、次世代AWD制御の試験場としても期待される。

 一方で課題も多い。車重が増すことで燃費性能は悪化し、航続距離が短くなる。タイヤの過摩耗やブレーキ摩耗によるメンテナンスコストの上昇も見込まれる。路面から伝わる振動やノイズが増幅されるため、車室空間に与える影響も無視できない。また、乗員に与える乗り心地の質感も従来の4輪車とは異なり、精密な制御が求められる。

 さらに、現行の車検・整備制度は6輪構造を想定していない。型式認定や道路運送車両法をクリアするためには、新しい基準の設定や当局との協議が不可欠となる。インフラ面でも従来の駐車場やターンテーブル、洗車機などは6輪車に対応しておらず、追加コストや運用上の制約が発生する可能性が高い。

 総合的に評価すると、6輪車は技術的に現行制度の外側に位置する試みである。実用化には、

・車両規格の再設計
・高付加価値用途での限定展開

が前提となる。この構造は、重量増による課題だけでなく、走行性能・快適性・ブランド戦略・制度適合の複合的な要素を統合した挑戦であることを示している。

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