トヨタの禁断領域? レクサスLS「6輪ミニバン」はF1以来の挑戦なのか――車両規格も揺るがす「富裕層モビリティ」の再定義

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2025年10月、トヨタは5ブランド戦略を発表。レクサスLSは6輪ミニバンに転換し、後席快適性や走行安定性を高めつつ富裕層向け移動体験を再定義。象徴性と実用性の両立が試される挑戦である。

富裕層の象徴価値

FAB1(サンダーバードに登場したペネロープ号)(画像:青島文化教材社)
FAB1(サンダーバードに登場したペネロープ号)(画像:青島文化教材社)

 自動車は一般に四輪車と呼ばれ、タイヤが四つある構造が主流である。しかし、6輪車の事例も過去に存在した。その代表例として三つのモデルを紹介する。

 まず、英国のティレル・レーシングが開発したティレル・P34だ。1976年から1977年までF1世界選手権に参戦した。前輪を小径化して空気抵抗を削減し、前四輪でタイヤ接地面積とブレーキ性能の不足を補った。当時としては革新的な試みだったが、前輪サスペンションの故障が多く、小径タイヤの開発も順調に進まなかった。その結果、F1から撤退することとなった。1983年には「車輪は4輪まで」と規定が改正され、6輪車はF1から禁止された。この事例は、技術的挑戦が市場や制度と必ずしも連動しないことを示す先例となる。

 次に、SFの世界で最も有名な6輪車は、1965年から1966年に英国で放送されたテレビ番組「サンダーバード」に登場した「ペネロープ号(FAB1)」である。秘密諜報員レディ・ペネロープが所有するショーファーカーで、運転手はパーカーが務めた。FAB1のフロントグリルと上部の「スプリット・オブ・エクスタシー(女神像)」は、ロールス・ロイス社の使用許可を得ていたとされる。FAB1は

「多輪車 = 富裕層の象徴」

というイメージを世に広め、機能以上に所有すること自体がステータスとなる車の価値を示した。

 さらに、メルセデス・ベンツのスポーツ・レースブランドAMGは、Gクラスをベースとした「G63 6×6」を2014年に世界限定100台で販売した。主に中東市場の富裕層向けで、砂漠での走破性が重視されたが、市場はニッチに留まった。これらの例は、6輪車が象徴性の強い商品として認知される一方、実用性や制度面がともなわない場合、広範な市場展開が難しいことを示す。

 いずれのモデルも機能より

「象徴価値」

を重視し、奇抜な構造を採用していた。レクサスによる6輪ミニバンは、過去の事例を踏まえつつ、奇抜さを超えて、新たな移動体験やブランド体験としての価値をどう顧客に提供できるかが焦点となる。後席の快適性や安定性、デザインの独自性など、象徴性と実用性を両立させる戦略が問われている。

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