山陽新幹線「新尾道駅 = 失敗例」は本当か? 1988年開業以来揶揄され続けた駅、その存在意義を改めて考える

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尾道を訪れる観光客にとって、新幹線の最寄り駅は新尾道駅ではなく福山駅という現実。しかし、観光客以外に目を向ければ、その「風景」は変わってくる。

こだま駅の活用可能性

キャパに余裕がある山陽新幹線「こだま」の車内(画像:菅原康晴)
キャパに余裕がある山陽新幹線「こだま」の車内(画像:菅原康晴)

 上記のリポートでは触れられていないが、新尾道駅周辺では広島県立びんご運動公園も注目すべき施設である。公園は1500席のメインアリーナを中心に、野球場、テニスコート、プール、キャンプ場などが整備されており、県内でも最大級のスポーツ・レクリエーション施設である。大会やイベント開催時には多くの人が訪れる。

 地元報道によると、2025年1月、マンション管理などを手掛ける合人社グループが、公園のパークPFI事業(民間資金を活用して公共施設を整備・運営する仕組み)を受託した。今後はスケートボード場やグランピングなどの宿泊施設を新たに整備する計画である。大会やイベントは常時発生するわけではないが、一時的に来訪者が増えることは確かであり、同駅の最寄り駅としての存在価値に一定の意味を持たせる。

 この施設だけで新尾道駅の存在意義が格段に高まるわけではない。しかし今後は、最寄り駅であることを積極的にアピールする余地があるだろう。さらに注目すべきは、新尾道駅が

「こだま停車駅」

である点である。停車列車が限られるため、観光客やビジネス客に向けた利便性向上策を検討する余地もある。

 新幹線の駅は通常、東京や大阪など大都市圏に直結する高速鉄道としての役割が強調される。しかし、1983(昭和58)年に出版された佐貫利雄氏の都市論の名著「成長する都市衰退する都市」では、山陽新幹線内の人の流れは、対大都市圏よりも「こだま駅」を含む

「山陽メガロポリス内での移動の方が大きい」

と分析されている。

 当時、新尾道駅は存在しなかったが、同著は出版から40年以上経った現在でも、膨大なデータに基づく分析が高く評価されている。

「新幹線 = 東京・大阪」

という固定概念を外し、山陽メガロポリス内の「こだま駅」として捉えると、駅の利用実態は違った景色として見えてくる。

 JR西日本の「移動等円滑化取組報告書(令和5年度)」によると、新尾道駅の2023年の乗降人員は1956人である。計画当初の目標には届かなかったが、同駅より少ない乗降人員の新幹線単独駅も存在する。建設費120億円に見合う投資だったかは議論の余地があるが、単純に「失敗例」と断じるのは早計かもしれない。

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