船の「丸い先端」が消えた!?――いったいなぜ? 低速運航が変えた大型船の常識とは
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「燃費10%削減」とも言われた船首の丸い突起――バルバスバウ。かつて大型船の標準装備だったこの構造が、今や次々と姿を消している。背景にあるのは、脱炭素化と低速運航という時代の潮流だ。海運の象徴は、技術革新の波にどう抗えるのか。
進化続く船首設計
バルバスバウが完全に姿を消したわけではない。現在も一部の船種では採用が続いている。
・大型客船(クルーズ船)
・LNG(液化天然ガス)運搬船
・軍艦
これらに共通するのは、高速で一定の速度を維持しながら航行する必要がある点だ。
一方で、貨物船、とくにコンテナ船やばら積み船(バルクキャリア)などの商船では、新造船での採用は今後さらに減少すると見込まれている。背景には、国際海事機関(IMO)による温室効果ガス(GHG)排出規制の強化がある。年々厳しくなるCO2規制により、従来の高速運航では対応が難しくなっている。
さらに、空気潤滑技術や特殊コーティングといった、バルバスバウ以外の低抵抗技術が実用段階に入ってきたことも大きい。減速運航を前提にした新しいバルバスバウ設計も検討されてはいるが、今後この構造を持つ船はさらに減っていく可能性が高い。
なお、私たちが見慣れたバルバスバウ以外にも、さまざまな形状の船首が登場している。たとえば、双胴船や三胴船に使われる「ウェーブピアサー型」は、細く鋭い船首で波を貫くように進み、超高速航行を可能にする。
また、「Ax-Bow(アックスバウ)」は、水線面を鋭角にすることで、波浪中の抵抗増加を抑え、特に満載時に効果を発揮する。これらの設計はいずれも、造波抵抗を抑えることを目的としており、バルバスバウに代わる新たな選択肢となりつつある。