なぜ巨大船は「ブレーキなし」で止まれるのか? 知られざる減速方法を解説する
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船舶は全長300m、20万tを超える巨体を水上で安全に停止させるため、多様な減速技術と綿密な操船計画を駆使している。エンジン出力調整や逆回転プロペラ、舵の操作に加え、スラスターやタグボート、自動船位保持システムが連携。数kmにも及ぶ停止距離と時間を計算し、熟練の判断で事故を回避している実態に迫る。
スラスターと舵の減速効果

船の速度が落ちると、水の粘性抵抗がわずかに増加し、さらなる減速効果が得られる。船体の形状や喫水の深さも停止性能に影響を与える。球状船首や深い竜骨を持つ船と平底船では流体抵抗が異なり、造船時にはこうした流体力学的特性を踏まえて用途に最適な設計がなされる。
船舶は減速や停止のために多様な仕組みを活用している。まず舵は、左右に繰り返し切ることで蛇行運動を生み、船体の速度を落とす役割を果たす。
港湾内では潮流や風の影響が大きいため、スラスターという横向き推進装置が用いられる。スラスターは船首や船尾に設置され、低速時の細かな位置調整やその場での回転を可能にする。現代の大型船には前後両方に装備され、着岸や離岸操作の精度を高めている。
さらにタグボートが港内で大型船の補助を行う。高出力エンジンを搭載したタグボートは、狭い場所や混雑した港でも大型船を安全に誘導し、正確な停止を支える。
深海作業船や調査船など、特定の場所に留まる必要がある船舶には、自動船位保持システム(DPS)が導入されている。GPSや風速計などのセンサー情報を基にスラスターを自動制御し、位置を維持する装置である。
アンカー(いかり)は停止直前の船位固定に用いられるが、航行中に投下すると危険なため、速度が十分に落ちてから使用される。