「現存最古の路面電車」はなぜ残されたのか──債務37億円の「とさでん交通」 12億円支援の実情と10年後のあるべき姿とは
高齢者支える路面電車

高知県を走るとさでん交通の路面電車が当面、存続することになった。県と高知市など沿線地方自治体が支援拡大を決めたためだが、将来の危機が回避されたわけではない。
高知県南国市大埇(おおそね)のとさでん交通後免町停留場で年季の入った路面電車が動きだす。乗客は地元の高齢者とクラブ活動の運動具を持つ中学生グループの計5人。6月上旬の週末の朝、雨模様のせいからか、行楽に向かう家族連れの姿は見えない。
高知市を目指す路面電車は頻繁に乗り降りがある。後免町停留場から乗車した年金生活の高齢女性(80歳)=南国市=は
「朝は便数が多いから、近くへ出かけるのにちょうどいい。それに週末は空いているから」
という。それでも高知市に入り、沿線の風景が田舎町から都市部に変わると乗客が少しずつ増えていった。
コロナ禍で債務が急拡大

とさでん交通の路面電車は、はりまや橋停留場(高知市はりまや町)から後免町停留場へ向かう御免線、伊野町停留場(いの町)を結ぶ伊野線、JR高知駅と接続する高知駅前停留場(高知市北本町)行きの駅前線、高知港近くの桟橋通五丁目停留場(高知市桟橋通)へ向かう桟橋線の4路線がある。総軌道距離は25.3kmに及ぶ。
とさでん交通は高知市など県中部で路面電車やバス事業をしていた土佐電気鉄道、高知県交通、土佐電ドリームサービスの3社が合併して2014(平成26)年に発足した。土佐電気鉄道と高知県交通の2社が債務超過に陥っていたのを救済する目的で、県と県内12市町村が計10億円を出資し、事実上公営化した格好だ。
開業後は経営が順調に進み、発足時に約38億円あった債務が2019年度で約25億円に減った。しかし、コロナ禍が待ったをかける。乗客の激減で大幅赤字が続き、財務状況が急激に悪化、債務は2024年度で約37億円に膨らんだ。
高知市は有識者会議を設置して2022年から対応を検討したが、路面電車の運行区間適正化や路線バスとの並走区間解消などを求める報告書が2023年に提出され、路線維持が危機に直面していることが明らかになった。