EVさらに失速? なぜEUは「炭素繊維」を目の敵にするのか?「環境」は口実? 日本勢52%シェア、EV戦略、ブランド防衛…規制の真意を考える

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EUの炭素繊維規制案は一見、環境への配慮として映るが、その背景には産業戦略やブランド戦略、さらにはEV政策の変化が絡んでいるのではないか。日本企業が50%以上のシェアを誇る炭素繊維市場に対するこの規制が、どのような地政学的意図や市場シフトを示唆しているのかを読み解くことが求められる。

欧州ブランドを守るための「先手防衛」

EU(画像:写真AC)
EU(画像:写真AC)

 大手欧州自動車メーカーにとって、ブランドイメージは命綱だ。特にプレミアムブランドほど、環境負荷が低い素材で作られているかは顧客の購買判断を左右する。

 もし今後、炭素繊維の安全性に科学的疑義が突きつけられたとき、あの車は炭素繊維を使っているから危険だとの風評が生じれば、それだけでブランドに致命的な傷がつく。リスクが科学的に確定するのを待ってから対処するのでは遅いのだ。ゆえに今回の提案は、いわば

「先手防衛」

である。炭素繊維を“危うきもの”として予防的に遠ざけることで、ブランド価値を長期的に守ろうとする企業心理が背景にある。規制は、リスクマネジメントの一手段でもあるのだ。

 一方で、素材メーカーはこの危機をどう捉えるべきか。炭素繊維の安全性やリサイクル性の改善をアピールするだけでは、もはや不十分である。求められるのは、炭素繊維という素材の語り方そのものを変えることだ。例えば、

・人体に優しい炭素繊維
・分解性を持つ炭素繊維
・再生炭素繊維の流通網整備

など、技術と制度設計を組み合わせた、新しい価値の提示が必要だ。素材は単体では売れない。ストーリーがなければ、産業の中で居場所を失っていく。

 炭素繊維の未来とは、強くて軽い素材から「循環する素材」への進化である。そこにこそ、日本企業が世界市場で再びリーダーシップを握る余地がある。

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