EVさらに失速? なぜEUは「炭素繊維」を目の敵にするのか?「環境」は口実? 日本勢52%シェア、EV戦略、ブランド防衛…規制の真意を考える
EUの炭素繊維規制案は一見、環境への配慮として映るが、その背景には産業戦略やブランド戦略、さらにはEV政策の変化が絡んでいるのではないか。日本企業が50%以上のシェアを誇る炭素繊維市場に対するこの規制が、どのような地政学的意図や市場シフトを示唆しているのかを読み解くことが求められる。
「軽量化ドリブン」からの転換か
もうひとつの読み解き方は、電気自動車(EV)戦略の変質である。炭素繊維は軽くて強い、ゆえにバッテリー搭載量の多いEVでは航続距離の確保に貢献してきた。だが、そもそも欧州のEV政策は今、確実に揺らいでいる。
EV販売への補助金削減、インフラ整備の遅延、電力供給の不安定性。かつての“EV至上主義”は、いまや現実とのギャップに直面している。2024年後半からプラグインハイブリッド車(PHV)への再評価が起きており、軽量化の優先度が相対的に下がりつつある。
この文脈において、炭素繊維は贅沢品になりつつあるのではないか。価格も高く、加工の難易度も高い。さらに使用後の廃棄・リサイクル対応も複雑だ。EVの大衆化が進めば進むほど、炭素繊維の存在はコスト的にも社会的にも、説明がつきにくくなる。
つまり、今回の規制案は炭素繊維の規制であると同時に、
「軽量化ドリブンの設計思想」
の転換とも考えられ、欧州がEV戦略の地盤修正に動く兆候としても捉えられるのだ。