「滞在するだけ」で価値を感じられる日本の旅体験【連載】平和ボケ観光論(5)

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コロナ禍後、インバウンド需要の回復により、日本のアミューズメント施設や街中での“観光しない旅”が新たなトレンドに。選手村の食文化や、キャンプ場、ゲームセンターなど、日常的な娯楽に焦点を当てた滞在がリピーターに支持され、観光の新しいスタイルが形成されつつある。

インバウンド需要復活と新たな楽しみ方

クレーンゲーム(画像:写真AC)
クレーンゲーム(画像:写真AC)

 コロナ禍が収束し、日本の街並みには新たな変化が見られるようになった。少子化などの影響で国内アミューズメント施設の売上は減少傾向にあり、ゲームセンターの店舗数も年々減少していたが、訪日需要の回復とともに、これらの施設は再び活気を取り戻している。なかには海外からの旅行者を主要な顧客層とする店舗も存在し、秋葉原などの都市部ではクレーンゲームに興じる人々の姿が日常の風景となった。

 何度も日本を訪れるリピーターは、特定の観光名所を目指すよりも、都市の日常に溶け込む過ごし方を選択するようになっている。これは、街そのものを自由に回遊し、その土地ならではの活動を能動的に楽しむ層が増えたことを意味している。食べ歩きやショッピング、ゲームセンターに加え、カラオケやサウナ、岩盤浴など、日本人の日常に根ざした娯楽が海外の人々からも高い支持を得ている。

 こうした「日常の観光資源化」を支えているのは、日本の都市が持つ圧倒的な安全性の高さだ。世界各地の多くの都市では、夜間の歩行や不慣れな路地裏での散策には常に緊張や警戒が伴う。しかし、日本では防衛本能を解除した状態で、24時間いつでもどこへでも移動できる自由がある。この「警戒を必要としない移動の自由」こそが、都市の隅々までを体験の場へと変え、日本での滞在を特別なものにしている。

 これまでの「観光地を巡る旅」という概念は変化し、日本の社会環境が保証する平穏な空気感そのものを楽しむニーズが強まっている。日本各地に張り巡らされた安全という名の無形のインフラは、旅行者の行動範囲を飛躍的に広げ、心身を深くリラックスさせる場を提供している。無防備なまま街を歩き、日常の娯楽を享受できる日本の環境は、世界中の旅行者が渇望する貴重な滞在体験として、その価値をますます高めていくはずだ。

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