「滞在するだけ」で価値を感じられる日本の旅体験【連載】平和ボケ観光論(5)
地方創生の新形態、宿泊施設の進化

日本各地に点在する「少年自然の家」や「青年の家」といった施設は、かつて多人数が寝食を共にする活動の拠点として、地域における滞在のインフラを支えてきた。少子高齢化の影響により、これらの施設は年々減少傾向にあり、その現状は惜しまれる。しかし、こうした公共の資産を現代の感覚で再生し、新たな滞在の形を提示する動きが注目を集めている。
静岡県沼津市では、かつての施設を刷新し、2017年から「泊まれる公園 INN THE PARK」として運営を始めた。2022年3月には福岡でも「泊まれる公園 INN THE PARK 福岡」が開業し、好評を博している。こうした施設の人気は、特定の場所に留まり、その空間の心地よさを享受する旅のあり方が支持されている証左といえる。これまでアクセスの不便さと捉えられてきた立地も、日本全土を覆う安全な社会環境があればこそ、日常から離れて心を解き放てる目的地としての価値を帯びるようになる。
また、国内のキャンプブームは落ち着きを見せているものの、海外からの旅行者による需要は着実に伸びている。日本オートキャンプ協会(JAC)の「全国キャンプ場の2024年秋冬営業状況」によれば、全国のキャンプ場で海外からの利用者が増加しており、特に北海道、九州、沖縄地方でその傾向が顕著であることがわかる。
リピーターを中心とした旅行者は、有名な名所を慌ただしく巡るのではなく、レンタカーなどを駆使して自らハンドルを握り、あえて地方の深部を目指している。異国の地で人里離れた場所へ向かい、夜を過ごすことは、本来であれば相応の警戒や準備を伴うものだ。しかし、どこへ行っても身の安全を過度に心配しなくて済む日本の平穏な環境が、地方への自由な移動と、自然の中での豊かな体験を支えている。移動そのものに緊張を強いられない社会基盤が、旅行者にとって地方への心理的な距離を縮め、その土地での時間を最大限に楽しむための土台となっている。