空港のグランドスタッフはなぜ低賃金? 重労働でも「年収250万~300万」という現実! CAとの待遇格差が日本観光業に及ぼす深刻な影響とは

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日本の航空業界を支えるグランドスタッフの平均年収は約434万円(実際は250万円から300万円とされる)。これはキャビンアテンダントより大幅に低い水準だ。雇用形態の違いや労働組合の影響、さらには「見える仕事」と「見えない仕事」の評価格差が、この待遇差を生んでいる。人手不足が深刻化するなか、この賃金格差は是正されるべきなのか。航空業界の安定運営、ひいては観光立国・日本の競争力に与える影響を考察する。

格差の背景にある要因

空港(画像:写真AC)
空港(画像:写真AC)

このような待遇格差が生まれる理由には、以下の3つがある。

1.職種の認知度とブランド力の違い
2.業務の可視性と付加価値の違い
3.雇用形態の違いと労働組合の影響力の差

それぞれについて解説しよう。

 キャビンアテンダントとグランドスタッフの待遇格差が生まれる理由は、主に3つの要因に起因している。

 まず、職種の認知度とブランド力の違いがある。キャビンアテンダントは、航空会社の「顔」として非常に目立つ存在で、マーケティング的にも大きな価値がある。新しい戦略が発表されるたびに登場し、ウェブサイトやパンフレットなどにも必ず登場する。特に制服は航空会社の特徴を表しており、ブランド戦略に大きな影響を与える存在だ。

 例えば、シンガポール航空のキャビンアテンダントが着る「サロン・ケバヤ」は、そのデザインがアジアンテイストにあふれ、どの空港でも目を引く。1974年から続くこの制服は、シンガポール航空の象徴であり、世界中の旅行サイトや旅行雑誌に登場することが多い。また、キャビンアテンダントはドラマや映画にもよく登場し、華やかで憧れの職業として認知されやすい。

 一方、グランドスタッフは「裏方」のイメージが強く、どのような業務を行っているのかが一般的には見えにくいため、表立った評価を得にくい。そのため、航空会社側でも宣伝に貢献することは少なく、コスト削減の対象になりやすい。

 次に、業務の可視性と会社からの評価の違いが挙げられる。キャビンアテンダントの業務は機内という限られた空間で行われ、乗客の目に直接触れるため、その働きが評価されやすい。正規雇用が多いため、航空会社は労働状況を把握しやすく、問題があれば迅速に改善策を講じることができる。

 これに対して、グランドスタッフの業務は空港内のさまざまな場所に分散している。乗客が直接その業務を見ることは少なく、また業務ごとに担当が異なるため、航空会社が評価する際にも差が生じやすい。このように、業務の可視性や評価の仕組みに違いがあることが、待遇格差に影響している。

 最後に、前述の雇用形態と労働組合の影響力の差がある。キャビンアテンダントは正規雇用が多く、強力な労働組合を持っている。航空会社の労働組合は賃金交渉や労働環境の改善に対して強い交渉力を持ち、場合によってはストライキなど実力行使を行うこともある。これにより、航空会社側も労働者に配慮し、改善策を出してきた歴史がある。

 一方、グランドスタッフは非正規雇用者が多く、組合の結成が難しい。また、業務が多重下請けの構造になっているため、現場で起きている問題が上層部に伝わりにくい。このため、グランドスタッフは待遇改善を求める機会が限られ、改善が進みにくい状況にある。

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