交通事故を起こした際、ディーラーがやたらと「新車購入」を勧めてくる理由

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ディーラーの営業マンは、事故にあって修理が必要な顧客に新車を勧める絶好の機会と考える。事故の補償額が修理費を上回る場合もあるし、年式が低いクルマの場合は全損でも高額な補償が期待できる。営業マンはこの機会を利用して、顧客に新車の購入を勧めるのだ。

事故補償金の自由な使い道

事故車(画像:写真AC)
事故車(画像:写真AC)

 保険会社や保険の種類にもよるが、自動車保険の保険料は必ず修理代に充てなければならないという決まりはない。1回の交通事故で被った損害の補償を受ける権利は、自動車の所有者にあり、補償金をどのように使うかは彼らの自由である。

 つまり、事故による損害額が確定すれば、保険会社から支払われる補償金でクルマを修理する必要はない。補償金を現金で受け取り、自分で修理し、余ったお金を他のことに使うことができるのだ。

 実際、筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)が事故の被害者になったとき、相手から受け取った補償金の一部をクルマの修理に使い、残りを他のメンテナンスに使った。クルマの損傷状況や修理方法にもよるが、この方法は金銭的に得をすることがある。

 営業マンはこのようなケースをいくつも知っているからこそ、顧客に新車への乗り換えを勧めるのである。顧客のクルマによっては、修理するよりも、そのままの状態で下取り車として引き取り、再販したほうが利益が出る場合もある。

 もちろん、傷の分だけ下取り価格は下がるが、下取り車と修理代は頭金として新車の購入価格に充当されるため、顧客が不利になることはない。そのため、営業マンは顧客に

「修理代はそのまま受け取って、新車に乗り換えませんか」

と提案するのである。

教育システムが生む新車販売

自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)
自動車ディーラーのイメージ(画像:写真AC)

 では、なぜディーラーの営業マンは、事故入庫した顧客に新車を勧めるのか。その理由は

「全社的な教育システム」

にある。会社は顧客のクルマを修理しても、事故車を下取りに出して新車を売っても利益が出る。一番やってはいけないことは、顧客に

「他社で入庫するか、新車を買うか」

の選択肢を与えることである。つまり、自社の利益になるような社員教育が必要なのだ。

 従って、第一のアプローチは、顧客に「買い替え」を勧め、その意思がなければ「板金修理」を勧めることである。そのため、修理費を次のクルマに充てるよう顧客に提案したり、

「ぶつけた(ぶつけられた)クルマは心理的に嫌なのでは」

などとセールストークを展開したりする。

 それでもダメなら「当社の工場でしっかり修理して、長く乗り続けましょう」と方針を変えるのだ。

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