物流存続に不可欠な“痛みをともなう”大変革の行方【短期連載】フィジカルインターネットの課題を考える(3)

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フィジカルインターネットの議論は始まったばかりだ。旧来の物流システムを革新するがゆえに、否定意見も噴出するだろう。第3話となる本稿では、それでもフィジカルインターネットを実現すべき理由を考える。

本業の運送事業で過半数の社が赤字たれ流し

物流、運送のイメージ(画像:写真AC)
物流、運送のイメージ(画像:写真AC)

 全日本トラック協会の調査によれば、2019年度、貨物運送事業において黒字(営業利益)を出している事業者は37%しかいない。調査対象全社の平均営業利益率はマイナス1.0%である。

 この状態は、2019年度に限ったことではない。2018年度の平均営業利益率はマイナス0.1%、2017年度はマイナス0.3%であり、営業利益ベースで、2018年度は46%、2017年度は50%の運送会社が赤字に陥っている。

 2010年10月に行われた第1回フィジカルインターネット実現会議では、「物流は社会経済を円滑に回す上で重要な社会インフラである」と指摘してる。だが、毎年半数の企業が赤字を垂れ流すジリ貧の運送業界は、「社会経済を円滑に回す上で重要な社会インフラ」たりうるのだろうか?

 多くの人は、この事実を知らない。

 だから明日も明後日も、運送会社は社会のインフラとして、私たちの生活に欠かせないあらゆるものを運び続けてくれると考えている。だが、「もうこれ以上の赤字には耐えられません」とある日突然、赤字の運送会社が運送事業を停止したらどうなるのか。

物流課題を先送りにしてきた日本社会

 国土交通省が主導してきたこれまでの物流施策は、どこか決め手を欠いてきた。

 近年の課題を振り返れば、トラックドライバー不足は解消していないし、2015年に「再配達による社会的損失は、年間約1.8億時間・年約9万人分の労働力に相当する」と発表され、2017年のヤマトショック(※)につながった再配達問題は、一見解消傾向にあるようだが、これはコロナ禍によって在宅勤務者が増え、なし崩し的に得られた結果でしかない。

 そもそも、現在日本社会が抱えている物流危機の多くは、1990(平成2)年に運送事業が免許制から認可制へ変更されたという、政策の失敗に端を発する。

 1990年に約4万社だった運送会社は、規制緩和によって2007年には約6万3千社まで増加した結果、過当競争から運送会社の収益を悪化させ、物流業界全体が疲弊した。

 国の怠慢に釘を差したのが、経団連である。

 2015年10月、経団連は、提言書「企業の競争力強化と豊かな生活を支える物流のあり方」を発表した。

 提言書では、「物流を介在させることなく、効率的で円滑な企業活動や満足度の高い暮らしをおくることは、今日的には事実上、困難」と物流の重要性を指摘した上で、「物流業界が官民連携で課題の克服や新しい産業構造への適切かつ迅速な対応をとらなければ、わが国産業全体の競争力が弱体化するおそれ」と提言している。

 こうした状況を打開するべく、フィジカルインターネット実現に向け、国土交通省に加えて経済産業省が名乗り出てきたのは、経済界の強い要望もあり、国がようやく重い腰を上げ、物流改革に本気で取り組もうとし始めた証なのだろう。

(※)ヤマト運輸が法人顧客に対し運賃の一斉値上げを発表。他路線便事業者も追随。

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