なぜ高齢者は運転免許証の「自主返納」をためらうのか? 交通問題の深掘りで見えてきた痛ましい現実とは

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近年、交通事故のなかでも特に高齢者の自動車事故が注目されている。運転免許証の自主返納を促す動きもあるが、これで本当に問題は解決するのだろうか。

高齢者事故の背後に潜むリスク

失効した運転免許証のイメージ(画像:写真AC)
失効した運転免許証のイメージ(画像:写真AC)

 近年、交通事故のなかでも特に高齢者による自動車事故が注目されている。

 内閣府によると、2009(平成21)年から2019年にかけて、75歳以上のドライバーによる死亡事故は毎年400件を超え、そのうち80歳以上が約56%を占めている。

 特に不適切なハンドル操作やアクセルとブレーキの踏み間違いが死亡事故全体の

「28%」

を占めており、運転能力の衰えも事故の一因になっている可能性が指摘されている。

 高齢ドライバーに自主返納を促す動きもあるが、果たしてそれで問題は解決するのだろうか。

免許を自主返納した75歳女性

 運転免許証の自主返納制度が始まった1998(平成10)年の2596件から、2019年には60万1022件まで増加した。しかし、2019年をピークにその後3年間は減少を続けている。その理由を探るため、実際に自主返納した75歳の女性の生活を追った。

 山口県の山間部でひとり暮らしをしている三浦敏子さん(仮名、75歳)は、娘の勧めで運転免許証を自主返納した。高齢ドライバーの事故が連日報道されるなか、

「事故を起こしたくないし、社会のため」

と返納したときは気分がよかったという。ところが、翌日からの不便な生活に頭をかかえることになる。

 買い物はバスで1時間離れた町まで行かなければならない。重いものを買えば帰りは重労働である。また、田舎なのでバスは1日4本しかない。病院に思いのほか時間がかかり、バスに乗り遅れたときは、雨のなか1時間もタクシーを待った。

 車なら数時間で済む用事が、すべて1日がかりになってしまう。同い年の友人は車を自主返納せずに運転している。その姿がうらやましく、「こんなはずではなかった」と自主返納したことを後悔するようになった。

 また、仲間と会うのが楽しくて定期的に通っていたカルチャースクールも、バスの都合で止めた。車がないため外出も難しく、半引きこもり状態になってしまった。

 そんな不便な生活をしている人たちを知ると、自主返納をためらい、車を乗り続けるケースもあるのだろう。

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