EVの“低価格化”待ったなし? 「コスト削減 → 生産増加」のポジティブサイクルで、見えてきた世界普及の現実

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これまではEVは内燃機関車よりも高いというイメージが強かったが、2023年に入り大きな転換期を迎えている。

コスト削減を予測する「ライトの法則」

コストの削減を予測する「ライトの法則」(画像:ARK Invest)
コストの削減を予測する「ライトの法則」(画像:ARK Invest)

 EVや製造業への造詣が深い人なら、「ライトの法則」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。これは製品のコストの削減を予測する方法のひとつで、「累計生産数が倍増するたびに製造コストが一定割合削減される」というものだ。量産効果(規模の経済)による効率化と混同されやすいが、ライトの法則は「量産効果」と「技術革新」をあわせたものだ。

 例えば、これまでEVの増加を(筆者が知る限り)最も正確に予想してきたARK Investは、1908年に発売されたT型フォードについて

「累計生産数が倍増するたびにコストが15%下がる」

と指摘。T型フォードは内燃機関車の黎明期を代表する自動車だが、2017年に発売された近代的なEVであるテスラ モデル3にも当てはまるもので、さらに機能や性能が同じであれば別の製品にも通用するという。

 それでは、今後のEVの販売数予測にライトの法則を当てはめるとどうなるか。EVの販売数を集計しているEV-VOLUMESによると、2022年までの世界の累計EV販売数は約2000万台で、2023年は約1100万台の新車販売が見込まれている。

 現時点では2024年の販売数の予想は困難ながら、ここ数年は毎年1.5倍前後のペースで増加が続いており、仮にこのペースが続けば1600万台程度の計算になる。2024年までの累計台数は2022年の2倍以上にあたる4700万台となり、2年でコストが15%以上削減されることになる。

 すなわち既に内燃機関車と同等の初期費用を実現しているEVは、2年後には内燃機関車より少なくとも15%安くなり、長期の保有コストではさらに差が開くことを意味する。

 さらにIEAでは、2030年のプラグインハイブリッド車(PHEV)を含むEVの販売数として、中間シナリオで累計2億5000万台と予想している。2022年の時点では約3000万台だったことから、倍増を3回、すなわち15%のコスト削減も3回繰り返すことになる。

 また、ARK Investを除く多くの機関が、年々予測を上向き修正している点も考慮する必要がある。このようなコストの低下と生産量の増加のループにより、新興国を含む世界で普及が進む可能性が高まっている。

 トヨタがBEV専用プラットホームの開発を急ぐ理由も、このような背景を考慮したものと予想されるが、今この変化を想定できているメーカーならば10年後や20年後も生き残れるだろう。

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