ネット上で“鉄道ファン”を叩く人が、実は「とても損している」ワケ
優れた「観察力」
さて、前置きが長くなったが、私が個人的に知っている鉄道好きの人について、まずは観察力という観点から紹介していこう。
鉄道は鉄道車両、線路、駅や信号機などのさまざまなハードウエアと、それを動かすためのプロトコルやダイヤなどのソフトウエアが一体となった大規模なシステムである。そして、このシステムを動かすために多くの専門的な能力を持った人が働いている。
さらに公共輸送機関であるため、不特定多数の利用者がいる。現代ではトラックにシェアを奪われているが、かつては物流の主役でもあり、今も多くの荷物を運んでいる。
システムを形作る構成要素と構成要素の間には接点があり、システムが多様になるほど接点は増えていく。そして接点の形や仕組みはさまざまな工夫によって最適化されている。
普段、鉄道を移動手段としてしか見ていない人は、こういったことをあまり意識していないだろう。一方で鉄道好きの人は、この複雑なシステムが愛情の対象なので、いつも穴が空くほど観察している。その結果、物の形や仕組みに対する観察力が研ぎ澄まされている人が多い。
例えば、車輪とレールの接点にはさまざまな工夫がある。車輪の直径は車のタイヤのように一律ではなく、内側が大きく外側が小さくなっている。これは直線では常に車両が線路の中央に行くように、カーブでは遠心力によって車両を外側にずらし、外側と内側の線路の距離の差と車輪直径の差をうまく合わせ、摩擦を少なくする工夫である。
乗客が鉄道システムと接するのは主に車内設備や駅設備だが、ここにもさまざまな工夫がある。扉の数や座席レイアウトは地域性や利用者数、利用実態などを踏まえてなるべく多くの人が快適に過ごせるように工夫されているし、つり革の高さや形や向きにも、人の手の形やつかまりやすさを考慮したいろいろな工夫がある。
駅の構造や案内版にも、人の導線やわかりやすさを考えた工夫が随所に見られ、券売機のユーザーインターフェースも人間の認知プロセスをよく研究して作られている。