見えてきた水素サプライチェーン 豪州の炭鉱から神戸へ 製造・運搬・貯留の流れ
「2021年度中に水素輸送を実現させる」
褐炭は世界に広く分布している“若い”石炭で、水分が50~60%と多く含まれている。大量調達しやすいメリットがあるが、乾燥すると自然発火しやすいため輸送には不向きで、現地での発電くらいにしか使われてこなかった。そのため海外取引は皆無であり、権益確保や安価な調達が容易という側面がある。
褐炭は現地のプラントで処理されブルー水素(CO2フリー水素)が製造される。ブルー水素は、製造過程で生じる二酸化炭素(CO2)を大気中に放出せずに回収し貯留した水素を指しており、今回のプロジェクトでも、水素の製造過程で生じたCO2をオーストラリアの炭鉱近くの沿岸、その海底の地中深くに貯留する計画だ。
生成した水素は気体の800分の1の体積になるよう、マイナス253度の極低温で液体化し、魔法瓶のような二重殻真空断熱のタンクで貯蔵する。貯蔵した液化水素は船に載せ替えて太平洋を北上し、日本へ運ばれる。
「2021年度中に液化水素の輸送を実現させる」と、川崎重工執行役員・水素戦略本部副本部長で、HySTRAの事務局長兼技術開発部長でもある西村元彦氏は意気込む。
「すいそ ふろんてぃあ」は1250立方メートルのタンクを搭載しており、液化水素75トンを充填可能。「Hy touch神戸」には、この倍の2500立方メートル・150トンが入る直径19mのタンクを設置している。貯蔵量は、トヨタの燃料電池車「ミライ」3万台に相当する。なお、船からタンクへの充填は、6時間ほどで完了するという。
オーストラリアから日本へは、9000kmを16日かけて運ぶことになる。すでに無完成している運搬船「すいそ ふろんてぃあ」や荷役施設を使い、今後は、航海中の船の揺れが液化水素に与える影響や、船と陸上タンク間での充填、配管の断熱設計などといった項目の検証や研究を継続するという。
ちなみに「すいそ ふろんてぃあ」は輸送の実証用に造られた船であるため、今後の大量輸送に向けては、現行LNG船のようなタンクを4つ搭載した大型運搬船を改めて建造する計画がある。
西村氏は「(水素のサプライチェーンを構築して)いずれは液化天然ガス(LNG)と同じように運んで、そして使えるようにしたい」と水素活用の今後の展望を描いている。
※ ※ ※
9月19日(日)、トヨタの水素エンジンカローラが、三重県の鈴鹿サーキットで開催されている「スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第5戦 SUZUKA S耐」(鈴鹿S耐)に参戦。水素の一部はHySTRAのものが使われた。ただ、輸送体制が構築の途上であるため、今回は電源開発が水素をオーストラリアからガスボンベで空輸し、岩谷が国内輸送を担当したという。