EU「ガソリン車35年禁止」という名の狂想曲が始まった! BEV・FCVシフトか全方位戦略か、自動車業界に流れる“経営者受難”の悲しきメロディー

キーワード :
, ,
2023年2月14日に、段階的に自動車の新車のCO2排出量をゼロとする法案が、EU議会で可決された。これにより、2035年以降は、ガソリン車など内燃機関の自動車の販売がほとんどできなくなる。

フォードはヨーロッパで従業員削減

フォードのウェブサイト(画像:フォード)
フォードのウェブサイト(画像:フォード)

 時を同じくして、フォードがヨーロッパで従業員3800人削減すると報道された。特にフォードの工場があるドイツでは、3800人のうち2300人が対象となると大きく取り上げられていた。

 フォードのこの取り組みは、昨今の原材料価格やエネルギー価格の上昇、および中国との競争激化を受けての根本的な対策だけでなく、電気自動車化が念頭にあるという。

 さらには、フォルクスワーゲンのMEB(Modularer E-Antriebs Baukasten、モジュール式eドライブ構築キット)プラットホームの活用により、BEVの研究開発員や開発コストを削減するのではないかと見られている。

 BEVは、技術的には黎明期であり、バッテリーの問題ひとつとっても最終形態まで行き着いているわけではない。それでも、ヨーロッパという大きな市場で方向性が決められたからには進まざるを得ない。しかし、膨大な研究開発費用を投入して作ったとしても、激しい販売競争により回収できない可能性もある。

 このような状況下では、他社のプラットホームを利用してでも、BEVの開発コストを下げたくなる気持ちがわからないでもない。

EV狂想曲の先にあるものとは

EVのイメージ(画像:pixabay)
EVのイメージ(画像:pixabay)

 見えざる大きな力により激流が生じつつあり、今回のEU議会の決定は、EV狂想曲の序曲といえよう。今後自動車メーカーは、潮目を読みながら、各社の経営体力に見合う方法で戦略を練っていかなければならない。

・自社開発のBEVへの完全シフト
・他社プラットホームのBEV生産による生き残り
・BEV、FCV、ハイブリッド車(HV)を含めた全方位戦略
・FCVへの完全シフト
・HVが受け入れられる地域だけを相手にほそぼそとやっていく

 これらは方向性の一例であるが、現時点ではどれもありなのだ。どの方策が正解だったのかは、はるか先の未来に明らかになる。

 世界中の国や地域、そして既存の自動車メーカーおよび新興の電気自動車メーカーも交えて繰り広げられるパワーゲームに、勝ち筋など存在しない。そのうえ、時には何者かのいたずらで、科学的、論理的、あるいは倫理的な正しさに関係なくゲームが進むのだ。

 このEV狂想曲のなかで、自動車メーカーは戦略を誤ると数十年後に会社がつぶれる可能性があるし、胃に穴があくような過酷な選択を迫られる可能性もある。こう考えると、ここしばらくは自動車メーカー経営者受難の時代なのかもしれない。

全てのコメントを見る