赤字ローカル線はなぜ簡単に廃止できないのか? その裏にある「国防」「有事」という非情な現実
赤字ローカル線の存廃が大きな問題となっているが、すぐにトラック輸送へ転換すればいいとはいえない事情がある。なぜなら、鉄道は「有事」の際の重要なインフラでもあるからだ。
鉄道の存廃問題を支えるもの

その後、貨物の往来が始まると、青函トンネルは軍事輸送を安定させるパイプとして盛んに利用されるようになる。
1988年8月に実施された陸上自衛隊の北方機動特別演習では、青函トンネルを使って戦車やりゅう弾砲の輸送が実施された。以降、調達される兵器は青函トンネルを念頭に置いた貨物輸送が可能かどうかを検討されている。そして現在に至るまで、青函トンネルを使った軍事輸送訓練は盛んに実施されている。北海道の部隊から車両などを九州まで輸送する協同転地演習などがそれだ。
そんななか、2021年に実施された陸上自衛隊の大演習で、有事を想定した輸送訓練が全国で行われた。この訓練には陸上自衛隊の7割にあたる約10万人が参加し、九州へ部隊が集結する形となった。
輸送は鉄道、交通、運送の約20社の協力で実施され、品川区のJR東京貨物ターミナル駅でも車両の積み替え訓練が行われた。これは、有事の輸送手段として鉄道が依然として重視されていることを伺わせた。
繰り返すが、大量の物資や人員を輸送する手段として、鉄道の価値は大きい。いかに、赤字ローカル線が増えようとも、有事の際の動脈として鉄道は欠かせない。鉄道の存廃問題には単に
「利用者の多寡」
だけではない問題が横たわっているのだ。