鶴見線「海芝浦駅」はいつから“都会の秘境駅”となったのか? 当時の資料から読み解く
近年、昭和レトロな雰囲気で人気の鶴見線。そんな同線(海芝浦支線)の終着駅として知られるのが、海芝浦駅だ。その人気はいつからなのか。資料から探る。
芥川賞作品が切り開いた未来

一風変わったデートスポットとして知られるようになった海芝浦駅の知名度を、文字通り全国区にしたのが、1994(平成6)年上半期に芥川賞を受賞した、笙野(しょうの)頼子『タイムスリップ・コンビナート』だ。
マグロの夢に導かれて、自宅から電車を乗り継ぎ海芝浦駅に向かう幻想的な内容の作品で、芥川賞のみならず三島賞と野間文芸新人賞と、新人三賞すべてを受賞し、話題を呼んだ。
折しも、1994年には首都高湾岸線の新ルートである「鶴見つばさ橋」が開通し、それを望めるスポットだったこともあり、海芝浦駅はさらに注目されるようになった。とりわけ、鶴見つばさ橋の開通で、対岸の海の向こうには石油タンクしかなかった風景がガラリと変わり、デートスポットとしての地位も向上した。さらに2000年代に入り、「工場萌(も)え」という新たなブームが到来すると、海芝浦駅は一段と広く知られるようになった。
年代を追うごとに認知度の上がっていった海芝浦駅だが、路線を所有するJR東日本が公式に駅をPRすることはほとんどない。鶴見線でイベント列車が運行されたには、海芝浦駅も利用されているが、駅自体を利用したPRはない。
資料を探した限りでは、JR東日本が海芝浦駅をイベントに利用するようになったのは、2020年12月に鶴見線開業90周年を記念して、土日限定で自由に鳴らせる銅鑼(どら)を設置してからである。
こうしてみると、海芝浦駅の魅力は新たな感性による
「発見の積み重ね」
によって生まれてきたものと言える。他の多くの駅にも、まだ発見されていない魅力が眠っているに違いない。