貴重な「鉄道遺構」はどのくらい残すべきか? 鉄道開業150年で大直面、ライターが感じたJR東の「冷淡さ」とは
JR東日本に待ったをかけた菅元首相

前者は歴史や文化を守ること第一に考えているのに対して、JR東日本はあくまでも私企業のため経済性を優先しなければならない。高輪ゲートウェイ駅の一帯は東京でも指折りの一等地であり、商業地として開発すれば莫大(ばくだい)な利益を生み出す。高輪築堤の約800m分を鉄道遺構として保存したら、それだけJR東日本は売り上げ増のチャンスを逃すことになる。
さらに、文化財の維持・保存には莫大な費用がかかる。維持・保存には公的支援もあるだろうが、JR東日本がまったく無関係という立場を貫くことは難しい。面倒が増えてしまいかねないのだ。それらを考慮すれば、JR東日本が一部を保存すると打ち出したことは仕方がないことだったのかもしれない。
JR東日本の開発計画をそのまま進めるという動きに待ったをかけたのは、政治力だった。高輪築堤の大発見が大々的身報道されると、菅義偉首相(当時)が現場を視察。「まさに文化遺産。すばらしいと思った」と感想を漏らし、国史跡などの指定に前向きな姿勢を示した。
菅首相は具体的に保存する範囲を示さなかったが、一国の宰相が価値を認めたことで学術界は沸き立った。実際、文化審議会は2021年に国史跡へ指定するように答申し、すでに史跡指定されていた旧新橋停車場に追加する形で高輪築堤を国史跡に指定している。
政治的な後押しもあり、学術界からはJR東日本の一部保存という方針を撤回するように求める声が高まった。特に日本イコモス国内委員会は高輪築堤を「世界遺産に匹敵する」として、発見された遺構を全面的に現場保存することを要望している。
150年前にわが国の近代化をけん引した貴重な鉄道遺構だけに、高輪築堤を保存するか、それとも撤去して開発を進めるのか、といった議論は、世間の耳目を集めた。
歴史・文化遺産をどう守るのかという課題は、なにも鉄道遺構だけに突きつけられたものではない。都市化が進むなか、古墳や遺跡などは当時のまま保存することが難しくなっている。技術の進化とともに文字や写真、映像などの記録媒体が発達し、それらで記録すれば十分という意見もあるだろう。博物館などのミュージアム施設に保管するという選択肢もある。