自動車業界に長く勤めた私が「自動運転の車」に断じて乗りたくない3つの理由
モビリティー変革の二大潮流

モビリティー産業は現在、大きな転換期を迎えている。転換の第1の潮流は、炭素中立のための電動化と再生可能エネルギーの利用拡大で、第2の潮流は先進運転支援システム(ADAS)と自動運転システム(AD)だ。現在、これらの技術は航空や鉄道、船舶業界のほうが、自動車業界より先行している。
鉄道業界では1981(昭和56)年、神戸市が踏切のない全駅ホームドアの新交通システム「ポートライナー」を世界初の無人運転として開始したが、保守的な日本では社会合意が形成されず、現在では欧州がこの分野のトップランナーとなっている。
JR東日本は少子化による運転士不足を懸念し、バスと在来線の自動運転と、新幹線の「ドライバレス運転」の実証試験を実施しており、同時に省エネ化も目指している。
航空業界は自動操縦が常識

航空業界は主に安全性向上の観点から、巡航時の自動操縦オートパイロット使用が常識となり、三人からふたり乗務への省人化を実現させた。なお、巡航時の手動操縦を禁じている航空会社もあるほどだ。
しかし、「クリティカル・イレブンミニッツ」と呼ばれる「離陸時3分、着陸時8分」の自動操縦はまだ実現していない。地上からの遠隔操縦システムも含めて、完全自動操縦システムの開発が進められている。
船舶業界では、事故削減と人手不足の両面から、2025年を目標に無人運航船の実用化を目指す「MEGURI2040」プロジェクトが進行中だ。
順風満帆ではないAD

さて、自動車業界ではITやスタートアップも含め、多くの企業がADの実証試験を実施している。
2018年12月には米グーグルの子会社ウェイモが、世界初となる自動運転タクシーのサービスを開始。2022年2月にはゼネラルモーターズの子会社クルーズも続いたが、同年9月、クルーズがサンフランシスコで開始した自動運転タクシーで、対向車との交通事故が発生。ソフトウエアのリコールが当局から発表された。テスラの死亡事故など、他社でもさまざまなトラブルが発生しており、順風満帆ではない。
残念ながら、いかなる技術を駆使しても事故をゼロにできないが、だからといって、技術革新を止めてはいけない。
ちなみにJR東日本は、新技術の社会的合意を得るには、
「現状非悪化(現状よりも状況を悪化させない)という考え方がひとつの目安となる」
としている。