トヨタ初のBEV「bZ4X」が「KINTO専用車」として登場した合理的理由
BEV市場が抱えるリスクとは

そもそも、BEV市場が抱えるリスクとは何なのだろうか? 代表的な三つのリスクを紹介しよう。
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リスクのひとつ目は、「使い勝手の悪さ」だ。ふたつの例を挙げてみよう。
ひとつ目の例としては、充電スタンドの少なさに代表されるBEVを取り巻くインフラ整備不足が挙げられる。詳細は本ウェブサイトの記事「購入者わずか1割! マンション住民のほとんどが「EV」所有に踏み切れないワケ」(4月27日配信)を参照いただきたいが、自宅、外出先問わず、従来のガソリン車やHVと比較してmとにかく充電効率が悪く、またそれを補うための充電スタンドの数が全く足りていないのだ。
ふたつ目の例としては、航続距離の短さが挙げられる。今やクリーンディーゼル車やHVでは航続可能距離1000kmの大台を突破する車種が次々と発売されている。その一方、例えばbZ4Xにおいては、前輪駆動(FWD)車のメーカー発表数値は、航続可能距離559kmと前者のわずか半分程度の距離となっている。燃費(BEVにおいては“電費”)を気にするユーザー層にとって、この航続可能距離は明らかに短すぎるだろう。
続いてリスクのふたつ目は、「高額な駆動用バッテリー交換費用」だ。
使用条件によって変わるものの、一般的にBEVの駆動用バッテリーは新車購入から5年目を経過したあたりで、不具合が出てくるケースが散見される。不具合と言っても内容はさまざまで、駆動用バッテリーの充電量や充電スピードが若干落ちる程度のものから、完全に充電できなくなってしまい、BEVとして使い物にならなくなるケースまだ。
後述するが、bZ4Xの場合はその販売手法から、実際に駆動用バッテリーの交換費用を請求されることはない。ただ、仮に実費で交換した場合、その交換費用は100万円を超える。
BEVにおける駆動用バッテリーとは、ガソリン車やHVにおけるエンジンと同義だ。そもそも5年ごとに不具合が発生しやすいエンジンを搭載し、その交換費用が明らかに高額な自動車を一体どれほどのユーザーが購入するだろうか。BEVの駆動用バッテリーが抱える問題とは、そのような非常に大きなものなのだ。
三つ目のリスクとは

そしてリスクの三つ目は、中古車市場においてBEVの買い取り価格に高値が付きにくいことだ。理由はさまざまであるものの、やはり大きな要因はBEVが抱える前述のふたつのリスクだ。
具体的に次の2車種で検証してみよう。ひとつは、現在日本で最も売れている日産「リーフ」。もうひとつは、日本のHV界をけん引してきたトヨタ「プリウス」だ。どちらも2022年6月現在の現行車は、発売から3年以上経過している。
リーフの場合、公式ウェブサイトに掲載の全グレードのオプション無しの新車価格を平均すると、420万円程度。続いて車買取オークション「ユーカーパック」で、リーフの3年落ちの中古車の買い取り平均相場を見ると190万円程度となっている。
一方でプリウスの場合、公式ウェブサイトに掲載されている全グレードのオプション無しの新車価格を平均すると、310万円程度。続いてユーカーパックで、プリウスの3年落ちの中古車の買い取り平均相場を見ると、170万円程度だ。
つまり、新車購入から3年間でプリウスが平均140万円値落ちするところ、なんとリーフは平均で230万円も値落ちしているのだ。この差は決して小さいものではない。
新車購入から3年たつと、車が最初に車検を迎える。車検を受ける前に車を売却して次の車種に乗り換えるユーザーは多い。前述のふたつのリスクに加え、売却時の収益に100万円近い差が開くとなると、おのずとユーザーの手はBEVには伸びなくなるのだ。
ここまで紹介したのは、あくまでもBEVを取り巻く買い手側のリスクだ。それではメーカー側、すなわち売り手側のリスクとは一体何だろうか。
答えは簡単で、買い手側のリスクがそのまま売り手側のリスクとして跳ね返ってくる。買い手側がBEVのリスクを危惧して購入しなければ、それがそのまま売り手側の売り上げ減につながる。それどころか、量産車を製造した上で売れないなら、メーカーあるいは販売店の在庫車が売り手側の損失となる。
加えて、前述の通りトヨタは多額の研究・開発資金を投入し、bZ4Xを皮切りに新たなBEVシリーズを展開しようとしている。その第1弾が鳴かず飛ばずということになれば、企業のブランドに大きな影を落とすことになる。