疑問だらけのリニア「前倒し計画」 一極集中から多極分散への転換は本当に成功するのか
三重県が亀山市で一本化できたワケ

三重県が亀山市で一本化できたのは、東名阪自動車道の亀山インターチェンジの存在が大きい。
クルマはネットで買う時代!? トヨタのオンラインストアとは【PR】
亀山市はかつてシャープのテレビ生産で話題になったが、現在そのにぎわいはない。以前に取材で訪れた際、日中でも人が歩いていない亀山駅前にリニアの早期延伸を訴える看板が掲げられており、印象に残っている。
県庁所在地の津市、最大都市の四日市市、名古屋のベッドタウンとして注目されている桑名市などに比べて、亀山市は規模は明らかに格下だ。それでも、東名阪自動車道があるため、県内多くの地域(東紀州は除く)からアクセスがしやすい。そのため、リニアの駅は亀山市ということで早くから一致していた。
対して、奈良県ではさまざまな思惑が対立している。
奈良市はJR奈良駅と近鉄奈良駅付近、あるいは奈良線の平城山駅南側への建設を狙う。対して生駒市は、同市高山地区への「けいはんな学研都市」の誘致を目指している。この一本化はかなり困難そうだ。
奈良市はいうまでもなく県庁所在地であり、日本有数の観光地だ。観光客を呼び込む手段として、新駅を求めるのはわかる。対して、生駒市は奈良県の中でも特異なエリアで、近鉄によって大阪市内と直結している大阪市のベッドタウンなのだ。開発中の学研都市に新駅を誘致することで、生駒市独自の発展を目指していることがわかる。
ひとまずは亀山市に駅を設置して県全体で発展する意志を持つ三重県に対して、残念ながら奈良県は、自治体同士が「いいとこ取り」をしようとしているのが現状だ。明確なルートも決定しないなか、前倒しの計画ばかりが進んでおり、実に危ういことになっている。
加えてコロナ禍以降、そもそも乗客を確保できるのかといった問題も出ている。前述のとおり、交通網を整備して移動時間を短縮し、多極分散化を図るのが「新しい資本主義」の計画だ。しかし、社会全体のデジタル化が進むなか、多極分散化した人たちは、東京・名古屋・大阪間をそんなに頻繁に移動するだろうか。社会全体の価値観が大きく変化するなか、前倒しに対する期待値は低いと言わざるを得ないだろう。