デンソーを襲う「450億円」――製造業平均の「3倍」の速さで悪化する「輸送用機械・器具製造」、株価6万円台の熱狂と実体経済の断絶とは

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金融市場は日経平均6万円台を維持する一方、景気DIは41.5へ2カ月連続で低下。原油高によるコスト上昇と供給制約が自動車産業を直撃し、株価と実体経済の乖離が鮮明になっている。

現場を蝕む素材不足と供給網の混迷

2026年4月の国内景気動向(画像:帝国データバンク)
2026年4月の国内景気動向(画像:帝国データバンク)

 景気DIが悪化した背景には、いくつもの要因が複雑に絡んでいる。中東情勢の緊迫化で原油価格が高騰し、それが燃料費や材料費を押し上げた。仕入れ価格の上昇分を販売価格に乗せられない企業は、収益を大きく削られている。

 特にホルムズ海峡が封鎖に近い状態にある影響は、日本のものづくりの現場を直撃した。財務省の貿易統計を見ると、2026年3月における中東からのナフサなどの輸入量は、前年と比べて36.9%も減り込んでいる。

 この材料不足の波は、あらゆる製品に及んでいる。カルビーがポテトチップスの袋を白黒の印刷に変えたニュースは象徴的だが、車業界の深刻さはその比ではないだろう。部品大手のデンソーは、材料供給の不安によって2027年3月期の営業利益が450億円も押し下げられると見通している(『読売新聞』2026年5月8日付け)。

 混乱は、いわゆる「街の車屋さん」にも影を落とす。板金塗装を手がける現場では、欠かせないシンナーの供給が8割も減り、仕入れ価格は5割近く跳ね上がった。新しい店舗の開業を諦める業者も出ている。ほかにも、総合輸送機器メーカーの日本フルハーフ(神奈川県厚木市)が生産を減らし、ミシュランがタイヤの値上げを決めるなど、物がないという現実が経済をじわじわと蝕んでいる(同)。

 政府側は「必要な量は確保している」と繰り返すが、現場の不安は消えない。先行きを恐れた在庫の囲い込みが、流通の流れをかえって止めてしまっているのだろう。製造業全体の景況感が0.7ポイントの下落にとどまるなか、前述のとおり「輸送用機械・器具製造」では2.0ポイント減を記録した。つまり

「平均の3倍近い速さ」

で、特定の産業だけが急激な冷え込みにさらされている。材料が届かなければ、現場は立ち行かない。小規模企業のDIが3年8か月ぶりに30台まで落ち込んだ事実は、もはや後がない状況にあることを物語っている。

 市場の目線が今ではなく先にあるからこそ、株価は高値を保つ。将来の稼ぐ力を先取りして動く株式市場に対し、景気DIは今の現場が抱える苦境を映し出している。

 このふたつの間には埋めがたい溝がある。仕入れ価格が跳ね上がっても販売価格への反映は遅れがちだ。特に車づくりの現場では、看板を掲げる大手の価格転嫁が末端の部品メーカーまで届かず、下請けに負担が集中する構図が続いている。

 投資家は企業の効率化や海外での稼ぎを評価するが、国内の現場は物が入らない、運べない、人が足りないという物理的な壁に突き当たっている。先々の利益を夢見る金融市場と、資源の制約に縛られる製造現場。全く異なる論理で動くふたつの層が、分断を深めている。

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