「全然反省していません」あおり運転加害者の57%が“後悔なし”――法秩序を飲み込む「歪んだ正義」の正体
2020年の妨害運転罪創設から5年。厳罰化で違反点数25~35点、免許取消もあり得る中でも、被害経験は34.5%に達し、直近半年でも15.2%が被害を報告。ドラレコ普及66.6%の一方で、あおり運転はなぜ減らないのか。その実態と構造を追う。
速度意識と摩擦の拡大

あおり運転の深層には、法と現場の乖離という構造的な歪みが横たわっている。チューリッヒ保険会社の調査によれば、あおり運転を誘発した契機として「スピードが遅かった」が30.2%、「制限速度で走っていた」が26.8%に達した。皮肉にも、
「交通法規を厳格に遵守する行為」
そのものが、他者の苛立ちを買い、攻撃の標的となる現実がある。
この摩擦の根底には、社会を覆う「効率至上主義」が影を落とす。とりわけ物流業界における配送時間の短縮圧力は、一刻を争う移動をドライバーに強いる。制限速度で走行する車両を、安全な存在ではなく、全体の生産性を阻害し自己の利益を毀損する障害と見なす層がいる。道路はもはや公共の場ではなく、効率を奪い合う
「闘争の場」
に変質している。学術的な知見もこの傾向を裏付ける。論文「あおり運転に関する研究の概観と抑止策の提案」(中井宏、大阪大学大学院人間科学研究科)では、相手の非を正そうとする教示的攻撃の危うさが指摘された。共通の交通ルールよりも、自らが信奉する走行基準を優先し、それが満たされない場合に
「しつけ」
の名の下で危険な行為に及ぶ。規範の私物化とも呼べる現象だ。弁護士ドットコムの調査結果は、この独善性をさらに色濃く映し出す。あおり運転の加害動機で最多だったのは「前車のスピードが遅かった」の58.7%。驚くべきは、加害者の56.5%が自らの行為を後悔していない点である。
「あおり運転をされる方が悪い」
「指導するために追いかけた」
という主張は、法秩序よりも個人の判断を上位に置く心理の現れにほかならない。道徳の崩壊を法だけで食い止めることの難しさが、ここにある。