風が止まると「帆船」はどうなってしまうのか? 進めないだけではない“もう一つの制約”とは

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風を失えば進めない――そう思われがちな帆船は、揚力や慣性、潮流を駆使し航行を続けてきた。最大時速20km超で物流を支えた歴史と、電動化との融合で再評価が進む現在。自然エネルギー活用の原点が、脱炭素時代のヒントを示している。

逆風航行を可能にするタッキングと揚力原理

船(画像:Pexels)
船(画像:Pexels)

 風が正面から吹きつけてくる状況で、船はどう振る舞うのか。常識的に考えれば押し戻されてしまいそうだが、帆船はこの逆風さえも味方につけて前進することができる。

 もちろん、風に向かって一直線に進めるわけではない。風に正対すると帆は力を失ってばたつき、推進力は失われてしまう。船乗りたちが「ノーゴーゾーン」と呼ぶ、進みたくても進めない死角が存在するのだ。

 そこで編み出されたのが「タッキング」という知法である。風に対して斜め45度ほどの角度を保ちながら進み、一定の距離で舵を切って反対の斜め方向へと向きを変える。このジグザグの動きを幾度となく繰り返すことで、船は一歩ずつ、しかし確実に風上へと迫っていく。その姿は、急勾配の坂道を左右に折れ曲がりながら登る登山道にも似ている。

 なぜこれほど不自然な動きで前へ進めるのか。その正体は、帆が生み出す「揚力」にある。帆の曲面に沿って風が流れるとき、その表裏で風速の差が生じ、気圧の低い方へと船が引き寄せられる。この時点では船を横に押し流そうとする力が強く働くが、ここで船底にある「キール」が重要な役割を果たす。

 キールが水の抵抗を受けて横滑りを食い止めることで、横向きの力が逃げ場を失い、前へと押し出す力に変わる。風に後ろから押されるのではなく、横へ逃げようとする力を船底で受け止め、強引に前進力へ書き換えているのだ。

 もっとも、この航法は決して効率が良いとはいえない。目的地まで遠回りを強いられ、速度も削られる。向かい風を突いて進む航行は、今も昔も、乗り手の技量と忍耐が最も試される局面といえるだろう。

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