風が止まると「帆船」はどうなってしまうのか? 進めないだけではない“もう一つの制約”とは

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風を失えば進めない――そう思われがちな帆船は、揚力や慣性、潮流を駆使し航行を続けてきた。最大時速20km超で物流を支えた歴史と、電動化との融合で再評価が進む現在。自然エネルギー活用の原点が、脱炭素時代のヒントを示している。

慣性維持と人力補完による航行手段

船(画像:Pexels)
船(画像:Pexels)

 風が止んだからといって、船がその場に釘付けになるわけではない。そこには「慣性」という物理の法則が働いているからだ。一度進み始めた物体は、水の抵抗を受けながらも、しばらくは惰性で動き続ける。

 現代のヨットのように軽量で、水の抵抗を極限まで削ぎ落とした船体であれば、風を失った後も驚くほど長く滑るように進む。対照的に、かつての重厚な木造船は、その重さゆえに抵抗に抗えず、またたく間に速度を落とした。

 ただ、速度の低下は別の問題を引き起こす。舵が効かなくなるのだ。舵は船体の脇を通り抜ける水の流れを利用して向きを変えるため、一定のスピードがなければ機能しない。無風状態の帆船は、前へ進めないだけでなく、望む方向を向く自由さえも奪われてしまう。

 エンジンという便利な動力を持たなかった時代、人々はこの「動けない時間」をやり過ごすために知恵を絞った。

 最もわかりやすいのは、櫂(オール)で漕ぐという選択だ。古代のガレー船などは、帆と人力というふたつのエンジンを使い分けるハイブリッド構造だったといえる。もっとも、人間の力には限界があり、巨大化した商船や軍艦でこれを実現するのは現実的ではなかった。

 あるいは「錨(いかり)を前方に投げて引く」という、泥臭い手法も取られた。小舟に錨を載せて前方へ運び、それを海へ沈めてから、本船側のロープを巻き上げることで船体を無理やり引き寄せる。確実ではあるが、気が遠くなるような手間を要する作業だ。

 内陸の川や運河であれば、岸辺から人や馬が綱を引いて船を進ませることもあった。いずれの手段も、自然の力が使えない局面を、泥臭い工夫と物理的な代替案で乗り越えようとした先人たちの足跡である。

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