高速バス「2人乗務」はなぜ機能しなかったのか?――乗客17人負傷事故に潜む運用実態、現場の合理性が生んだ「管理の死角」

キーワード :
,
交代要員が同乗しながら居眠り運転に至り、乗客20人中3人が重傷となった高速バス事故。形式上は整っていた安全体制は、なぜ機能しなかったのか。現場の判断と組織のあり方、そのずれが招いた構造的な歪みに迫る。

出向者依存で生じた管理の空白

調査事例。軽井沢スキーバス事故。国土交通省ウェブサイトから(画像:交通事故総合分析センター)
調査事例。軽井沢スキーバス事故。国土交通省ウェブサイトから(画像:交通事故総合分析センター)

 本件では、ドライバーふたりはいずれも別会社からの出向者だった。人手不足に対応するため外部から人員を受け入れる仕組みは効率がよいが、同時に

・運行の責任
・指導の担い手

を曖昧にしやすい。誰がどの段階で業務を確かめ、誰が現場の行動に責任を持つのか。組織の境目が、管理の目が届きにくい領域を生んでいた。

 出向という雇用形態は、受け入れ側にとって外部の人員をそのまま使える利点がある。ただ、その裏で、組織内で積み重ねてきた安全への意識が行き渡りにくくなる。この見えにくさが、事故後の基本動作、すなわち

・非常点滅表示灯の点灯
・停止表示器材の設置
・発炎筒の使用

の徹底を妨げた。第一事故の後、バスは本線上に止まり続けたが、後続車への警告は十分に機能しなかった。その結果、乗客20人のうち3人が重傷、14人が軽傷を負い、バスドライバー、トラクターとトラックのドライバーの計3人も軽傷を負う多重事故へと広がった。個人の一時的な怠りと片づけるより、

「情報が組織内で行き来しにくい状態」

に目を向けるべきだろう。出向ドライバーにとって、自らの判断の誤りや計画からのずれを報告することは、評価を下げるおそれをともなう。この自己保全の選択が、現場の危うい実態を見えにくくし、管理側の把握を遅らせた。

 さらに、第一事故で非常点滅表示灯の操作レバーが壊れた際、それを補う手動での安全確保がすぐに行われなかった点からは、緊急時の訓練が出向者に十分に行き渡っていなかった可能性もうかがえる。

 高速道路という逃げ場のない場所での停車は、それ自体が高い危険をともなう。本来であれば、機器に不具合があっても人の動きで補う必要があった。しかし、出向によって指導が行き届きにくくなり、事故後の初動で判断の遅れが生じた。その遅れが、第二事故につながる条件をそろえた。組織の形が整っていても、実際の運用がともなわなければ、不測の事態で安全を守ることは難しいのである。

全てのコメントを見る