高速バス「2人乗務」はなぜ機能しなかったのか?――乗客17人負傷事故に潜む運用実態、現場の合理性が生んだ「管理の死角」

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交代要員が同乗しながら居眠り運転に至り、乗客20人中3人が重傷となった高速バス事故。形式上は整っていた安全体制は、なぜ機能しなかったのか。現場の判断と組織のあり方、そのずれが招いた構造的な歪みに迫る。

休息確保を優先した判断の内実

事故概要図(画像:交通事故総合分析センター)
事故概要図(画像:交通事故総合分析センター)

 高速バスの運行では、連続運転を抑えるため交代ドライバーの配置が義務付けられている。今回の運行計画でも、実車区間はおおむね2時間ごとに交代する方針が示され、疲れを分け合う体制は整っていた。形式の上では安全を守る仕組みは揃っていたといえる。だが実際には交代は行われなかった。制度が想定する動きが現場で選ばれなかった点に、この問題の根があるだろう。

 ドライバーの判断には、その場の状況に沿った理屈があった。報告書によれば、ドライバーは

「一回ごとの休憩を長く取りたい」

として交代を見送っている。短い休憩を繰り返すより、まとまった睡眠の方が疲れが抜けると考えたためだ。この感覚は現場の実感として理解できる。とくに本件では、事故当日まで4日続けて夜間運行に当たっていた。積み重なった疲れに対し、こまめな交代では深い眠りを得にくい。そう受け止められていた節がある。

 加えて、日曜深夜で交通量が少なく、照明も乏しい高速道路という単調な環境が、危険の見積もりを甘くした。刺激の少ない走行環境は、認知の負担が軽い状態に見え、交代の手間を省く動機を強める。ただ、覚醒の低下が長時間運転と重なれば、注意力は落ち、居眠りへつながる。ここで起きていたのは突発的な出来事ではなく、身体の限界に沿った流れでもあった。

 こうした逸脱が一度きりでなく、交代地点で交代しない運用が常態化していた点は見逃せない。運行表という公式の記録はあったが、現場では状況に応じて扱いを変えるものになっていた。

 本来守るべき基準は慣行に押され、実態とのずれが日常化していた。管理側が把握できなかったのは、記録と実態の食い違いが重なり、情報が正しく伝わらなくなっていたためだ。計画通りに進んでいるように見える表面上の正常さが、進行していた危機の発見を遅らせ、結果として破綻に至ったのである。

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