インフラという絶壁 消費者が「EVを選ばなかった」決定的理由【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(4)

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2023年の欧州「2035年エンジン車禁止」はBEV普及の転換点とされたが、充電インフラ不足や中古バッテリー評価の不透明さ、寒冷地での航続距離低下により販売は伸び悩む。ACEAは2030年までに充電ポイントを年間8倍整備する必要があると指摘する。

冬場の航続距離制約

WLTPの概要(画像:国土交通省)
WLTPの概要(画像:国土交通省)

 リチウムイオン電池は化学反応でエネルギーを取り出す仕組みで動作するため、寒さに弱いのはBEVの宿命といえる。電池の性能は温度に影響され、冬場は航続距離が短くなる。カタログにはWLTP値と呼ばれる標準的な航続距離が表示されている。WLTPは「Worldwide Harmonized Light Vehicles Test Procedure(乗用車等の国際調和燃費・排出ガス試験方法)」の略で、国際的に統一された条件で測定された数値だ。実際の走行では、気温や運転条件、車内の暖房使用などによってWLTP値より短くなることが多い。

 ノルウェー自動車連盟(NAF)が実施した冬季テストでは、車種によってWLTP値との差が-4.1%から-29.5%まで幅があった。差が-29.5%の車種では、WLTP値482kmに対し、実測は340kmにとどまった。テストは毎年行われており、2023年はWLTP値との差が-20%未満の車種は4分の1にすぎなかったが、2025年には半数以上に改善した。性能改善は自動車メーカーの努力の成果といえる。

 しかし冬場の航続距離は車両性能だけでなく、車内温度や暖房の使用状況にも左右される。車内を暖めるほどバッテリー消費は増える。ADACは、家庭用電源による事前予熱や、車内温度・シートヒーターの設定を低めにすること、頻繁な加熱・冷却をともなう旅行を避けることなどを冬場の航続距離対策として推奨している。加えて、エコモードでの運転や速度抑制も推奨され、冬場のBEVには細かい運用ルールが多い。

 北欧の寒冷地域ではこうした対策に順応できるユーザーもいる。しかしEU全域の消費者に納得させるのは難しい。都市部の集合住宅では家庭用電源での予熱も現実的ではない。結果として、「冬場に制約が多いBEVをあえて選ぶ理由はない」というのが消費者の本音だろう。

 連載最終回となる次回は、「2035年エンジン車禁止」が撤回された世界で、自動車産業がたどり着く脱炭素の新たな均衡点を探る。

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