インフラという絶壁 消費者が「EVを選ばなかった」決定的理由【短期連載】「2035年エンジン車禁止」という幻影(4)

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2023年の欧州「2035年エンジン車禁止」はBEV普及の転換点とされたが、充電インフラ不足や中古バッテリー評価の不透明さ、寒冷地での航続距離低下により販売は伸び悩む。ACEAは2030年までに充電ポイントを年間8倍整備する必要があると指摘する。

BEV普及の停滞

EU本部(画像:Pexels)
EU本部(画像:Pexels)

 2021年に掲げられた「2035年エンジン車販売禁止」という野心的な目標は世界を震撼させた。だが、わずか数年でその梯子ははずされた。2025年12月16日、 欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会が発表した「35年以降のエンジン車容認」という事実上の撤回案。これは、理想に燃えた欧州が現実の前に折れた歴史的転換点といえる。中国製EVの猛追と、自国メーカーの悲鳴、そしてエネルギー安保の崩壊。本短期連載では、この「EVシフト狂騒曲」を地政学、産業競争力、消費者心理の三つの視点から総括する。欧州の戦略的敗北と、あらためて評価されるトヨタのマルチパスウェイ戦略。インフラの壁や政治的妥協の先に、自動車産業が辿り着く脱炭素の新たな均衡点を探る。理想から現実への回帰を通じ、次なる競争の行方を占う。

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 2023年2月、欧州議会は乗用車とバンのCO2排出基準に関する新規則を採択した。いわゆる「2035年エンジン車禁止」である。この規則は、バッテリー式電気自動車(BEV)が普及する転換点として位置づけられた。しかし、蓋を開けてみると、当初の予想よりBEVの販売は伸びなかった。

 消費者の購買意欲は十分に喚起されなかったのである。その背景には、政策立案者が無視し続けてきた課題がある。充電インフラの不足や中古車価値の不透明さ、寒冷地での性能低下といったBEV特有の弱点が影響している。

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