戦場で武器・弾薬を運搬! ニュース報道では分からない「軍事ロジスティクス」の深淵

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ウクライナ侵攻で注目を浴びた軍事ロジスティクス。その重要性と新たな課題について解説する。

「ジャストインケース」から「ジャストインタイム」へ

「RO-RO船」のイメージ(画像:pixabay)
「RO-RO船」のイメージ(画像:pixabay)

 ビジネスの世界で「ジャストインタイム」という発想が採用されてから久しいが、その核心は、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」であり、これは今日の軍事ロジスティクスの領域にも広く導入されている。

 冷戦から湾岸戦争にかけての時期は「ジャストインケース」といった発想でロジスティクスが運用された結果、その副産物として大量の物資を集積する「アイアン・マウンテン」が随所で構築された(詳しくは、江畑謙介著『軍事とロジスティクス』日経BP社、2008年を参照)。

 だが、最前線とロジスティクス担当の部隊が通信ネットワークで結ばれ、さらにはRFIDタグが導入された結果、物資の流れをリアルタイムで把握することが可能になった。

 なお、イラク戦争に先立って開始されたアフガニスタン戦争(2001年~2021年)では、最前線に移送した物資のうち70~80%が燃料および水であり、その水の75%が兵士のシャワー用であったとされるが、これは、アメリカ軍だけに許された「特権」である。同国軍の優れたロジスティクス能力の証左であるが、これは「水を制した」古代ローマ帝国(軍)をほうふつとさせる。

 また、民間企業も軍隊も「ジャストインタイム」の発想は同じであるものの、仮に相違があるとすれば、軍隊には戦時あるいは緊急時の物資不足など絶対に許されないため、多少の備蓄が必要とされ、許されるとの点であろう。その象徴的な事例が、いわゆる「RO-RO船」に代表される海上事前集積部隊(MPS)である。

軍隊の「アキレス腱」

テロリストのイメージ(画像:pixabay)
テロリストのイメージ(画像:pixabay)

 もちろん、今日までのこうした「軍事ロジスティクスにおける革命」は大きな問題を解決する一方で、新たな課題も多々生じさせた。

 例えば、イラク戦争では部隊の侵攻があまりにも早かったため、必要な物資を必要な時に必要な数量だけ提供するとの「ジャストインタイム」ですら、その欠点が表面化した。また、この戦争でアメリカ軍の犠牲者の3分の2以上がロジスティクス担当の部隊から出ており、ロジスティクスが軍隊の「アキレス腱(けん)」であるとの事実は、技術イノベーションが大きく進んだ今日でも変わらない。

 さらに冷戦終結後、今日に至るまでの戦争の多くは「テロとの戦い」の様相を呈しており、主権国家間の戦争を想定し構築された従来のロジスティクスの態勢が通用し難くなってきている。

 実はこれは今日、各国の軍隊が抱えた大きな課題のひとつである。従来の正規軍同士の戦争――国家間戦争――では、敵の位置が比較的特定しやすかったため、どこが戦場か、そのためにロジスティクスの線(ライン)をどう確保すべきか、などある程度は予測可能であった。

 ところが、テロやゲリラとの戦いでは戦場の位置すら不明確である。そのため、各国の軍隊は今日、必要な物資をできる限り自ら携行する方策に「回帰」しているようにも思える。

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