戦場で武器・弾薬を運搬! ニュース報道では分からない「軍事ロジスティクス」の深淵

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ウクライナ侵攻で注目を浴びた軍事ロジスティクス。その重要性と新たな課題について解説する。

ロジスティクスの重要性

ウクライナと国境を接するロシア南部ロストフ州の道路を進むロシア軍車両(画像:AFP=時事)
ウクライナと国境を接するロシア南部ロストフ州の道路を進むロシア軍車両(画像:AFP=時事)

 ロジスティクスの歴史を振り返ってみれば、例えば中世ヨーロッパの戦争では、基本的に侵攻した地域を「略奪」することによってのみ、軍隊は維持され得た。だが、略奪を基礎とする中世のロジスティクスのあり方は、19世紀の新たな戦争を賄うには問題が多過ぎた。

 その結果、この時期には組織管理上の変化が見られたが、その最も重要なものが、ロジスティクスという業務が正式に軍隊の中に組み込まれたことであり、こうした変化をイギリスの歴史家マイケル・ハワードは

「管理革命」

と表現した。この時期、現地調達を徹底することによって戦いの規模と範囲を劇的に変えたナポレオン・ボナパルトの戦争でさえ、ロジスティクスをめぐる問題がその戦略を規定したのである。

 こうした略奪の歴史が1914年の第1次世界大戦を契機として消滅したのは、戦争が突如として人道的なものに変化したからではない。戦場での物資の消費量が膨大になった結果、もはや軍隊はその所要を現地調達あるいは徴発することが不可能になったからである。

 ロジスティクスの重要性を一言で表現すると、古代から今日に至るまで戦争の様相は「戦略」よりも「ロジスティクスの限界」――兵站支援限界――によって規定されてきたとなろう。つまり、ロジスティクスこそ戦いの様相、そして用いられる戦略などを規定する大きな、時として最も大きな要因なのである。

 戦略を策定する行為を、あたかも真っ白なカンバスに絵を描くように捉える論者が多数存在する。ビジネスの世界であれば経営者が大きな目標を掲げ、それに向かってトップダウンで戦略を下位の部署に落としていくとの発想である。

 なるほどこれは外部から見て理解しやすく、格好の良いものである。しかしながら、たとえ戦略家が地図を広げてどれほど壮大な構想を練ったとしても、それを支える基盤――ロジスティクス――がなければ、しょせんは白昼夢にすぎない。つまり、カンバスの大きさを規定するのがロジスティクスなのである。

 実際、歴史を振り返ってみれば、戦いの場所や時期、規模を少なからず規定してきたのはロジスティクスの限界あるいは制約であったことが理解できる。湾岸戦争やイラク戦争で、とりわけアメリカ軍はいとも簡単に最前線まで兵士や物資を移送させたように見えるが、それが可能であったのは同国軍が中東地域へと至るロジスティクスの線(ライン)――例えばシーレーン――を確保し、それを維持し得たからである。

 もちろん、ロジスティクスの限界は時代と共に変化する。例えば、有名な古戦場の位置を地図で確かめてみれば、ほとんどが河川や運河の近くである事実に直ちに気が付くであろう。大量の兵士や物資を移送するには昔は河川や運河に頼るしか方法がなかったからである。河川沿いにロジスティクス拠点を設けて、そこから行動可能な範囲内で戦ったのである。

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