戦場で武器・弾薬を運搬! ニュース報道では分からない「軍事ロジスティクス」の深淵
ウクライナ侵攻で注目を浴びた軍事ロジスティクス。その重要性と新たな課題について解説する。
ウクライナ報道で広まった専門用語

2月下旬のソ連軍によるウクライナ侵攻以降、世界各国のメディアはその実相を詳細に伝えている。そうした報道の中で、
・ロジスティクス
・兵站(へいたん)
・補給
といった、やや耳慣れない専門用語が見受けられるようになった。
そこで、この小論では軍事ロジスティクスについて分かりやすく説明してみたい。
戦争のプロはロジスティクスを語る

イスラエルの歴史家マーチン・ファン・クレフェルトは、その主著『増補新版 補給戦――ヴァレンシュタインからパットンまでのロジスティクスの歴史』で、ロジスティクスをめぐる術(アート)を、
「軍隊を動かし、かつ軍隊に補給する実際的方法」
と定義した。
端的に言えば、ロジスティクスをめぐる術(アート)とは指揮下の兵士に対して、それなくしては兵士として活動できない「1日当たり3000kcal」を補給できるか否かの問題である。彼はまた、戦争をめぐる問題の
「90%」
はロジスティクスに関係するとも述べている。
もとより、ロジスティクスという言葉が意味するところについては、論者によって見解は大きく異なるが、この小論では、物資の「流れ(フロー)」――物流――を中心に考察を進めたい。
「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」
との格言がある。
1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争でもそうだったが、テレビなどメディアでは最前線の戦いの場面ばかりが話題にされ、アメリカ本土やヨーロッパなどから中東地域まで軍隊を移動させ、兵士に糧食や水を提供し、必要な武器および弾薬を運搬するという、戦いの基盤となるロジスティクスの側面はほとんど注目されなかった。
だが、仮にロジスティクスが機能不全に陥れば、いかに世界最強のアメリカ軍や多国籍軍(有志連合軍)といえどもほとんど戦えないのである。