SLだけが「観光列車」ではない――EL・DLを忘れていないか? 盛岡復活が問う「機関車体験の真価」とは

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JR東日本は2029年春、C58形SLを東北・盛岡~一ノ関間で復活運行する。SLは国内外で高い認知度を誇り、東武「SL大樹」では70億円の経済波及効果を記録。希少性と象徴性、EL・DLの静かな旅体験も組み合わせ、観光列車の価値最大化を狙う。

筆者の意見

SL大樹(画像:写真AC)
SL大樹(画像:写真AC)

 筆者(小林拓矢、フリーライター)は、SL観光列車の展開には基本的に賛成である。JR東日本がC58形機関車を活用し、盛岡~一ノ関間で運行を検討していることは、地域観光の底上げにつながるとして価値がある。SLは国内外で認知度が高く、集客の「最初の一手」として合理性がある。

 東武鉄道が「SL大樹」運行2周年の際に示した経済波及効果は70億円に上る。来訪者数の点では、2018年度の大井川鉄道では全乗客68万2000人のうち、SL列車利用者は28万7000人(約42%)であった。事業者や地域にとって、効果がわかりやすいのがSL運行の特徴である。

 ただし、SLへの偏重は課題をともなう。

「観光列車 = SL」

という固定観念に頼ると、

・整備
・予算
・運転要員

などの運行リスクが過度に集中する。SLは他の車両よりメンテナンスに手間がかかり、年間の運行日数も限られるため、観光施策としての持続性に課題がある。

 実は、ELけん引列車にも明確な価値があった。JR東日本高崎支社が運行していた「ELぐんま」は、SLとの組み合わせだけでなく、単独で「電気機関車 × 客車」という希少性を提供していた。車両の老朽化で2024年に営業を終了したものの、SNSでは

「ELのほうが静かで快適」
「機関車けん引列車の魅力を再発見した」

といった評価が多かった。

 JR西日本では、DLがけん引していた観光列車も存在した。木次(きすき)線の「奥出雲おろち号」である。1998(平成10)年4月から2023年11月まで運行され、年度によっては2万人以上の乗車があり、高い人気を博した。DLはSLに比べ、運行区間の制約が小さく、四季の景色や地域の物語と組み合わせやすいという利点がある。

 こうした点から、大井川鐵道のEL施策は注目に値する。SLに力を入れる同社は、ELけん引列車でも「昭和の普通列車」を再現し、観光商品として機関車けん引そのものを価値として提示した数少ない成功例といえる。

 率直にいえば、観光価値の本質は

「機関車けん引の客車体験」

にある。SL・EL・DLに関わらず、現代では客車列車そのものが絶滅危惧種である。普通列車や特急でも機関車けん引はほぼ見られない。車両のけん引という「物理的・視覚的体験の希少性」をどう扱うかが、本来の論点ではないか。

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