軽井沢バス事故から6年 低価格競争からの脱却こそが長距離バスの「乗客」と「運転手」を守る

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バス業界は運転手の高齢化が進み、疲労の影響を受けやすく事故を起こしやすい環境になっている。安全への投資が消費者側から「見えない」と見えにくいことが課題となっている。

消費者側から見えない「安全への投資」

バスの車内(画像:写真AC)
バスの車内(画像:写真AC)

 消費者側にも問題がある。バブル崩壊後の長期にわたるデフレ状況の中で、とにかく

「安いものこそ素晴らしい」

という考えが強くなった。

 確かに経営努力によって無駄を削り、従来のやり方では実現できなかった低価格をもって需要を取り込むことは、資本主義社会において極めて重要な行動規範だ。しかし、コストを削減する際に、安全に関するコストまで削減することは許されない。

 交通輸送の安全確保は絶対的な要請事項であり、これが十分に果たされずにサービスが提供されることになれば、それは不当廉売(ダンピング)として罰せされなければならない。安全への投資は適切な価格を設定する上で需要な必要事項なのだ。

 ここで難しいのが、安全に対する投資が消費者側から

「見えない」
「見えにくい」

ことである。運転者が十分な休息をとることができ、また、継続してそのような状態を実現するための投資は正当に評価されにくい。

 さらに、若い労働力がこの業界に常時入ってくることで、運転経験が継承され、また若い感性から、業界が時代の変化に応じて改革され、活性化されていくことが望まれる。しかし待遇の悪さから、若年労働力をうまく取り込むことができず、運転者の高齢化が進み、疲労の影響を受けやすく、事故を起こしやすい環境となっている。そして、何よりも

「事故さえ起きなければ問題にならない」

という考えがいまだ根強いのだ。

居眠り運転の背後にある「生活習慣病」

サービスエリアの貸し切りバス(画像:写真AC)
サービスエリアの貸し切りバス(画像:写真AC)

 交通事故が起こるたびに、世間では大きく取り上げられるが、その根底にある問題性について言及されることは残念ながらほとんどない。結局はその事故を起こした運転手の個人的な問題として済まされてしまうことが多いのだ。

 例えば、居眠り運転で大事故を起こしたとしよう。しかし、その重大な原因のひとつは、長時間勤務を強いられたことによる疲労の蓄積、あるいは不規則な勤務を長年強いられているにも関わらず、適切な健康チェックが行われて来なかったことで発症した生活習慣病(特に睡眠時無呼吸症候群)によるものが多いのだ。

 長距離バスを利用する際、「安ければいい」という考えは見直した方がいい。適切なサービスには、適切な対価を与えなければならない。それこそが、

「あなたの命」

を守ることになるのだ。