座礁、衝突、火災……「古典的な海難事故」はなぜ繰り返されるのか?──テクノロジーが暴く“人間の弱点”と、海運業界の構造的課題

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国内船舶事故は2024年に972件を記録。自動化やAI航行支援が進んでも、船員不足やヒューマンエラー、サイバー攻撃といった複合リスクが横たわる。経済や環境に直結する海運業界は、人材育成と包括的リスク管理が喫緊の課題である。

デジタル化と新リスク

船員のイメージ(画像:Pexels)
船員のイメージ(画像:Pexels)

 船舶の海難事故原因で最も多いのは

「ヒューマンエラー」

である。事故原因の7~8割を占める。近年、自動化技術や船員を補助する装備が多数登場している。しかし、人間が判断し行動しなければならないタスクは残る。警報確認や操船、周囲の安全確認などの作業は、人間の役割である。

 2017年に発生した米海軍ミサイル駆逐艦「フィッツジェラルド」の衝突事故でも、高度な装備を持つ艦船ながら、乗組員の状況認識能力低下が事故の一因とされている。

 問題とされたのは、乗組員の訓練不足と疲労である。日本でも同様の課題が存在する。背景には

「船員不足」

がある。船員の高齢化や長時間労働、船上生活の特殊性により、若者が敬遠する傾向がある。業界全体で人材確保が難航し、ひとりあたりの負担が増え、判断不足や長時間労働につながっている。加えて、自動化技術の進展により、1隻あたりの船員数は削減されつつある。船員ひとりが担当する範囲が広がり、業務負荷はさらに増加している。

 一方で、船舶のデジタル化は新たなリスクも生んだ。2017年、世界最大の海運会社マースクはサイバー攻撃を受け、グローバル物流網が一時停止した。船舶の制御システムがネットワークに接続されることで、遠隔操作の妨害や情報窃取のリスクが高まっている。特に

・GPSジャミング(電波妨害)
・スプーフィング攻撃(なりすまし)

は深刻である。こうした攻撃を受ける船舶は増加傾向にあり、制御システムへの侵入も現実的脅威となっている。機関制御、操舵、貨物管理といった重要機能がネットワーク化される中、サイバー攻撃による物理的事故のリスクは高まっている。

 しかし、多くの海運会社では情報セキュリティ対策が後手に回っている。物理的安全とサイバーセキュリティを統合した包括的リスク管理体制の構築が課題となっている。

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