座礁、衝突、火災……「古典的な海難事故」はなぜ繰り返されるのか?──テクノロジーが暴く“人間の弱点”と、海運業界の構造的課題
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事故が招く経済混乱

これまで、船舶の大規模な海難事故は何度も発生してきた。代表例のひとつが、1912年4月のタイタニック号沈没である。当時最新技術を集めた豪華客船タイタニック号は氷山に衝突し、1500人以上が命を失った。沈没の主な原因は、
・設計想定を超えた区画の浸水
・救命艇不足
である。
この悲劇を受け、国際的な海上安全規則が整備された。人命を守るための国際条約として、SOLAS条約(国際海上人命安全条約)が採択された。
日本でも大規模な海難事故が起きている。1954(昭和29)年9月、青函連絡船「洞爺丸」が台風による高波で転覆し、1155人が犠牲となった。この事故により、自然災害の予測限界が改めて認識され、青函トンネル建設計画が本格化した。
それから約70年が経過し、船舶技術は飛躍的に進歩した。歴史的な大事故の教訓を受け、IMOは安全規制を次々と強化している。それにもかかわらず、海難事故は根絶されていない。
海難事故は船舶や乗組員の安全にとどまらず、経済や環境にも深刻な影響を及ぼす。高度に統合された物流システムでは、一隻の船舶事故が世界経済に混乱をもたらす可能性がある。
2021年3月のEver Given座礁事故では、全長400mの巨大コンテナ船がスエズ運河を6日間封鎖した。世界貿易の約10%に相当する物流が停滞し、1日あたり約1億ドルの経済損失が発生した。運河の両端では320隻以上の船舶が足止めされ、世界各地の物流に大きな影響を与えた。
環境汚染の深刻さを示すのが、2020年7月のWAKASHIO座礁事故である。日本の海運会社が運航する貨物船がモーリシャス沖のサンゴ礁に乗り上げ、約1000tの重油が流出した。重油は世界有数の美しい生態系を直撃し、希少なサンゴ礁、マングローブ林、海草藻場が覆われた。回復には数十年かかる可能性が指摘されている。