通勤電車の「ながらスマホ」で失われた価値とは? 「情報消費」に駆り立てられる現代人、新聞、読書、雑談…失われた余白の価値…モビリティ社会の未来を考える
- キーワード :
- 鉄道
スマートフォン登場前後で変化した「移動の意味」

移動時間はかつて「余白」とされていた。以前の通勤や移動時間は、情報収集やリフレッシュの時間として使われていた。新聞を広げてニュースをチェックしたり、文庫本を開いて読書に没頭したり、周りの雑談を聞き流しながら考え事をすることが、移動時間の過ごし方の選択肢だった。
鉄道会社はこのニーズに応えるため、駅の売店で新聞や雑誌を販売し、文庫本サイズの書籍がよく売れた。経済紙や週刊誌の電車広告も、この需要を狙ったものだった。
また、車内では見知らぬ人同士が会話を交わすことも珍しくなかった。特に地方のローカル線では、長時間の移動が人間関係を作り、地域社会のコミュニケーションの場となっていた。
スマートフォンが普及し始めたのは2000年代後半。iPhoneが日本市場に登場したのは2008(平成20)年で、Android端末も急速に広まった。これにより、人々はモバイル端末へと移行した。スマートフォンの特徴は、「細切れ時間」を効率よく使える点であり、どんなコンテンツにもアクセスできることだ。
移動中にSNSをチェックしたり、動画を視聴したり、ニュースアプリで情報を集めたりすることが当たり前になった。仕事のメールに返信したり、ネット通販で買い物をする人も増えた。このような行動が一般的になり、
「移動時間 = 暇な時間」
という概念は急速に消えた。2023年版の情報通信白書(総務省)によれば、個人のモバイル端末保有率は86.2%で、そのうちスマートフォンが78.9%を占めている。また、世帯単位で見ると、スマートフォンの保有率は90.6%に達している。
特に、20~59歳の各年齢層で約9割がスマートフォンを使用しており、60~69歳でも約8割が使用している。6~12歳と80歳以上ではモバイル端末を持っていない割合が2割を超えている。
この変化はメディア産業にも影響を与えた。新聞や雑誌の売上が低下し、鉄道会社の駅売店は縮小を余儀なくされた。広告も紙からデジタルへと移行し、鉄道車両内の広告もデジタルサイネージが主流になった。
また、移動中に仕事をする人が増えたことも大きな変化だ。スマートフォンやノートPCのおかげで、オフィス以外でも仕事ができるようになり、「移動時間 = 生産時間」という価値観が強まった。