「実現させる気はあるのか」 未着工の「蒲蒲線」計画から浮かび上がる、大田区と東急の深い混迷
「ふたつの蒲田駅の一体化」という思惑

遅々として進まない大きな理由としては、区、京急、東急の主役3者の思惑がバラバラ、という指摘が以前からなされており、これを「同床異夢」と辛口表現するメディアもあるほどだ。
まず計画を主導する太田区にとっては
「ふたつの蒲田駅の一体化」
が最大の狙いのようで、これを中核にして集客や知名度を高め、蒲田地区の活性化を図るのが目標である。
換言すれば、仮に東急・京急の相互乗り入れが不発でも、蒲蒲線でふたつの蒲田駅が連絡さえすれば、取りあえずは目標を達成できる、と考えても不思議ではないだろう。
実際、京急・東急の相互乗り入れに関しては物理的・技術的に難問を抱え難航しており、これに対処する苦肉の策なのだろうか、早期実現を切望する同区は東急多摩川線~京急蒲田駅を第1期工事として先行整備する案を提案し始めている。
まさに「見切り発車」。なお、これに費やされる事業費を1260億円と概算している。
空港線を持つ京急は消極的?

前のめりの大田区とは対照的に、京急の心境は少々複雑のようだ。そもそも同社には羽田空港と都心を結ぶドル箱の京急羽田線があり、
「なぜわざわざ、他社に金の卵を産む鶏を渡さなければならないのか」
と不満があるとされている。
2010年代後半頃から、国はインバウンド(外国人来訪者)急増/観光立国化を成長戦略として推進。首都圏の国際競争力強化を図るため、空港~都心の直通鉄道の利便性アップを指摘、当然のことながら羽田にも注目が集まった。
と言うのも、京急の羽田~都心ルートの場合、都心側は品川や相互乗り入れする都営浅草線の新橋、東銀座、日本橋止まりで、山手線の巨大ターミルである東京、新宿、渋谷、池袋に直結していないため、利便性にやや難がある。こうした事情から京急は、あまり乗り気ではないながらも蒲蒲線計画に参画したようだ。
加えて、東急と京急とでは線路幅(ケージ)が違うため線路をつなげられない、という物理的問題が立ちはだかっている。東急(世田谷線を除く)の線路幅は1067mm(狭軌)で、JR在来線や東京メトロの大半、東武鉄道、西武鉄道などと同じだ。対する京急は約40cmも広い1435mm(標準軌)で、実は東海道・山陽新幹線などと同一なのだ。
規格が異なる路線を直結する場合は、レールを3本引き1本を共用することで異なるふたつの規格を並立する「3線軌条」で解決するのが世界では一般的で、国内でも青函トンネル内(北海道新幹線とJR在来線)が好例だ。
ただ蒲蒲線の場合、3線軌条で臨んだとしても東急電車が既存の京急空港線を通る場合、トンネルやプラットホームにぶつかってしまう危険性も高いという。このため、線路幅に合わせて車輪幅を自由に変更できる新技術のフリーゲートトレイン(軌間可変車両)の導入も検討されたが、高価で信頼性にも欠けるため沙汰やみになっている。
ただ21世紀の技術を駆使すれば解決できるはずで、肝心なのは解決しようという「やる気」だろう。