平成の特別番組「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」 なぜバスはクレーンで吊り下げられたのか? 過激な笑いが許された時代を読み解く
「バス吊り下げアップダウンクイズ」の過激な演出が許容された背景には、1989年から1996年の激動期における視聴者の欲求とメディアの競争が深く影響していた。社会の変化に伴い、過去のテレビエンタメがどのように進化し、現代ではなぜ受け入れられなくなったのかを探る。
90年代バラエティの倫理観

当時のテレビ業界では、規制が緩かったこともあり、「どこまでやれば視聴者が驚くのか」という挑戦がエスカレートしていた。特に日本テレビのバラエティ番組は、放送倫理よりもインパクトを優先する傾向が強かった。
番組が「出演者の自主的なリアクション」を強調することで、視聴者の罪悪感を薄めていた点も重要だ。ボロボロのバスに乗るのが「恒例」となり、たけし軍団やダチョウ倶楽部のような常連出演者が自ら進んで体を張ることで、「彼らが望んでやっていること」という文脈が作られていた。これによって、視聴者も「笑っていい」という暗黙の了解を持ち、倫理的な問題を意識せずに楽しめる仕掛けになっていた。
当時の視聴者には、「ヤラセ」という概念もある程度共有されていた。
「本当に危険なら放送しない」
「実際は安全に配慮されているはず」
という無意識の前提があったからこそ、安心して楽しめた部分もある。現代のようにSNSで個々の倫理観が即座に可視化される環境ではなく、あくまで「テレビの中の出来事」として受け止められていた。