いすゞ5月本社移転も 横浜の自動車産業「集積地化」を阻むものの正体

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自動車業界で横浜市に本社を移転したり、研究開発施設を新設したりする動きが相次いでいる。日本企業には斬新なイノベーションが求められている。

新たなクラスターが期待されるワケ

トヨタが本社を置く愛知県豊田市(画像:(C)Google)
トヨタが本社を置く愛知県豊田市(画像:(C)Google)

 例えば、トヨタがグーグルなどIT企業の研究拠点を豊田市に誘致することで産業集積をクラスターに進化させるのは、まったく不可能ではない。

 しかし、進出する企業からすると、トヨタとその系列企業としか交流できない豊田市よりも、いろいろな企業と交流できる新しいクラスターの方が、ダイナミックに活動できて魅力的だろう。

 以上から、日本の自動車産業でも、産業集積を進化させるのではなく、新たなクラスターを形成することが期待されるのだ。オペレーションの効率化に産業集積は極めて有効であり、既存の産業集積をなくしてしまえ、ということではない。

横浜が自動車クラスターになるための課題

神奈川県横浜市にある日産自動車グローバル本社(画像:(C)Google)
神奈川県横浜市にある日産自動車グローバル本社(画像:(C)Google)

 では、横浜は自動車クラスターに発展するだろうか。将来のことなので「よくわからない」ということだが、実現にはたくさんの課題がある。

 第一に「国・自治体のビジョンと政策支援」。シリコンバレーのように、自然発生的にクラスターが形成されるのが理想だが、系列関係がまだまだ強固で、事業規制が多い日本では、国・自治体の関与が欠かせない。自動車クラスター形成に向けたビジョンを描き、税制など支援施策を導入することが期待される。

 第二に「主要な完成車メーカーの進出」。いま、横浜には日産の本社があり、いすゞが加わるが、「自動車産業の中心」と呼ぶには程遠い。トヨタ・ホンダといった国内の主力メーカーや中国・欧米のメーカーが加わることで、集積としての厚みと成熟度が高まるだろう。

 第三は「学術研究機関の進出」。1983(昭和58)年に始まったみなとみらい地区の開発は9割が完成したようだが、商業施設・観光施設が中心で、大学など学術研究機関はほとんどない。同地区以外でも横浜市は、東京はもちろん京都や筑波と比べても、学術研究では見劣りする。

 こうした課題に国や横浜市がどこまで対応するかという話だが、横浜市民である筆者(日沖健、経営コンサルタント)は、大いに期待しつつも、悲観的である。

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