いすゞ5月本社移転も 横浜の自動車産業「集積地化」を阻むものの正体
クラスターへの期待

日本の「より良いものをより安く」というお家芸が通用しなくなったこと、GAFAがイノベーションで世界をリードしていることから、いま日本企業には斬新なイノベーションが求められている。
自動車産業でも、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応でイノベーションが重要になっている。
イノベーションという概念に最初に着目した経済学者ヨゼフ・シュムペーターは、イノベーションの本質を
「新結合の遂行」
と指摘している。
イノベーションはゼロから生まれるのではなく、すでに存在する情報・技術・ノウハウの組み合わせを変えることで生まれる。そして、情報・技術・ノウハウが混じり合う場として、近年クラスターの役割が注目されている。
オンラインのコミュニティーでコミュニケーションすれば良いではないか、という考えもあるが、対面のコミュニケーションが重要なようだ。ボッシュ日本法人のクラウス・メーダー社長は2月の会見で、
「対面でのコミュニケーションは従業員間の協力を促進し、クリエーティブな思考を高めると確信している」(『日刊工業新聞』2022年3月16日付)
と述べている。
世界で最も有名なクラスターは、アメリカのシリコンバレーだ。シリコンバレーでは、多くのIT企業が同業種・異業種の企業やスタンフォード大学と交流してイノベーションを創造している。シリコンバレーの成功に倣って、いま各国がさまざまな産業のクラスターを形成しようと取り組んでいる。
自動車産業にもクラスターが必要

日本の自動車産業では、古くから
・トヨタ = 豊田市
・日産 = 座間市
・ホンダ = 和光市
・マツダ = 広島市
・スズキ = 浜松市
といった産業集積が形成されてきた。
産業集積では、完成車メーカーを頂点に系列の部品メーカーが集まり、一体となって事業展開している。
せっかくこうした基盤があるのだから、産業集積を発展させることではダメなのか、新たにクラスターを形成する必要があるのか、という疑問があるかもしれない。
日本の自動車産業が世界一に発展したのは、相対立すると思われてきたQCD(品質、コスト、納期)をカイゼンやジャストインタイムなどでハイレベルに両立させたことだ。このQCDのレベルアップに、産業集積での完成車メーカーと部品メーカーの緊密な連携が大きく貢献したことは間違いない。
ただ、こうした産業集積はあくまでも既存のオペレーションの効率化を目指しており、イノベーションをあまり意識していない。系列内に閉ざされており、系列外の企業や学官との連携は希薄だ。そのため、完成車メーカーと部品メーカーの共同開発は盛んだが、ものづくりの改善という小粒なイノベーションにとどまっている。
いまCASEによって自動車メーカーは、単純なものづくりからイノベーションが勝敗を決する知識産業へと変貌しつつある。自動車産業の内部にあるものづくりのノウハウよりも、外部にある技術が重要になっている。ホンダとソニーの戦略的提携に象徴されるように、異業種を巻き込んだ協調が進められようとしている。