東京からベンチが消えた! 「座れない街」急増中、効率的な再開発が庶民のオアシスを奪う
ベンチが生む地域のつながり

勝どき駅周辺の再開発計画に示された「立体的なネットワーク」の構想には、都市空間における重要な要素が十分に反映されていないように感じる。それは、私たちが日常的に行う
「座る」
という行動だ。ベンチは単なる休憩場所ではなく、もっと深い意味を持っている。例えば、『Stanford Social Innovation Review Japan』に掲載された「日本でもっとも自殺が少ない町から学ぶ都市のデザイン」という報告には、徳島県南部の海部町(現海陽町)が自殺率の低さで知られ、その理由のひとつとして、江戸時代から続く「みせ造り」の路地に設置されたベンチが関わっている事例が紹介されている。
みせ造りとは、家の玄関横に取り付けられた二枚の板戸を上下に動かす仕組みだ。下の板戸を下ろすと、物品を並べて売ったり、夕涼みの場所として使われ、上げると雨戸として機能する。また、玄関横の小部屋は「みせのまとか」または「表の間」と呼ばれ、最も明るく仕事場として使われたという(阿波学会研究紀要論文)。
ベンチは、情報が集まり散らばる「ハブ」の役割も果たしており、住民たちは無意識のうちに悩みや隣人の変化、地域の気がかりな出来事を語り合い、早期の問題解決と介入を促進していたという。これは、豊かな地域社会を築くために重要な要素となっている(「日本でもっとも自殺が少ない町から学ぶ都市のデザイン:「路地」と「ベンチ」が援助希求行動を促す」)。
また、豊島区が始めた「としまベンチプロジェクト」も注目すべき取り組みだ。このプロジェクトは、
・出かけたくなるまち
・いつまでも自分の足で歩けるまち
・つながりのあるまち
という三つの目標を掲げ、ベンチを単なる休憩の場ではなく、まちづくりの大切な社会資本として位置づけている。
社会資本とは、社会の発展や安定に必要な物理的・制度的な基盤となる資源や施設を指し、これにより住民のつながりが生まれ、地域社会が活性化することが期待される。しかし、都市開発の現状は必ずしもこの方向と一致しているわけではない。例えば、タワーマンションの低層階にある「ランチカフェステーション」などの商業施設は、公共の居場所が減少する中で、その役割を果たすことが難しい。
・経済的な障壁
・時間的な制約
があるためだ。
豊かな都市空間を作るためには、誰もが自由に利用できる公共のベンチと商業施設がうまく共存する環境が求められる。しかし、現在の再開発では、デベロッパーが収益を生まない「無駄な空間」としてベンチを省き、居場所を商業施設内に閉じ込めようとしているのが現状だ。