北九州の台所「旦過市場」は本当に再生できるのか? 老朽化建物が続々解体、成功のカギを握る超重要な要因とは?
観光化が招いた危機

地域密着型市場から観光地型市場への転換が注目される事例として、大阪市中央区の
「黒門市場」
がある。同市場は歴史あり、長年にわたって地域住民や飲食店事業者の需要に応える「生活商店街」として機能してきた。しかし、2010年代以降、インバウンド需要の急速な拡大にともない観光地化が進んだ結果、深刻な問題に直面している。
外国語の看板が乱立し、観光客向けの高額商品が並ぶようになった。その結果、にぎわいはあるものの、インバウンド向けの
「ぼったくり商店街」
というイメージが定着し、生活商店街としての魅力は完全に失われてしまった。この事例は、
・外部需要の取り込み
・地域密着型機能の維持
のバランスを失うと、市場の持続可能性が損なわれることを示している。北九州市は2013(平成25)年に発表した資料「旦過市場の『位置づけ』と『神嶽川の改修』について」で、旦過市場を
「小倉都心において“まち”の回遊性を高める重要な商業拠点」
と位置づけている。この認識は、市場再生の方向性を考える上で重要な示唆を含んでいる。
今回の再生で最も重視すべきは、「地域のハブ」としての機能強化だ。北九州市立大学の新学部設置は、単なる若者の流入策としてではなく、多世代交流の場を創出する機会として捉えるべきである。成功のカギは、優先順位を間違えないことだ。まず
「近隣住民の買い物の場」
という基本機能を充実させ、その上で「交流の場」としての魅力を育てる。この順序を守ることで、結果的に国内外の観光客も訪れたくなるような場所が生まれる。
この点は築地市場の事例からも明らかだ。移転後も場外市場は、業者や地元客の生活の場として機能しながら、インバウンド需要も自然に取り込んでいる(むしろ住み分けが明確)。一方で、豊洲市場に隣接して作られた商業施設・千客万来は、当初から観光客向けを意識した高額メニューが「インバウン丼」とやゆされ、結局は観光客からも見放される結果となった。つまり、市場や商店街が真に魅力的な場所となるためには、まず地域の
「生きた生活の場」
として機能することが不可欠である。ゆえに、新しい旦過市場には、100年の歴史で培われた「北九州の台所」としての伝統を継承しつつ、地域コミュニティーの中心として進化することが期待されているのだ。