中国EV企業の果てなき野心! 東南アジア市場 支配のカギ「5000kmの充電回廊」とは何か? 産業構造の大転換はもう始まっている
「グリーン充電回廊」構想の進展
前述の論文「中国EV企業の海外進出の市場選択と進出段階に関する分析」で、苑氏はこう記している。
「実際、タイ政府の誘致政策に呼応し、上海汽車、長城汽車、といった中国メーカーは、タイでのEV生産を開始するプログラムに呼応し、現地生産に向けた準備を進めている。そして、すでに現地生産を開始した上海汽車と長城汽車は、タイ進出の共通点を持っている。つまり、上海汽車と長城汽車は、アジア事業を縮小した欧米自動車企業からタイの生産工場を買収後、改修を行いEVの生産を行っている。例えば、長城汽車は2020年にはアメリカのGM社のタイ・ラヨーン工場を買収した。同工場は長城汽車のEV 生産と輸出の中核拠点という位置づけである」
このような動きは、中国EV企業とタイ政府の思惑が絶妙にかみ合った結果といえる。中国企業にとっては、既存の設備を活用してコストを抑えつつ、新たな市場に迅速に進出できるメリットがある。一方、タイ政府の視点では、最先端のEV技術と大規模な投資を呼び込みつつ、遊休化しかけていた生産拠点を再活性化させる絶好の機会となっている。
このウィンウィン関係が、東南アジアにおける中国EV急拡大の原動力となっているのだ。中国企業の積極的な海外展開戦略と、タイをはじめとする東南アジア各国のEV産業育成策が相乗効果を生み出し、結果として、東南アジア市場における
「中国EVの存在感」
を急速に高めているのである。中国が東南アジアに注目する理由は、市場の大きさだけではない。
「地理的な近さ」
も重要な要因だ。中国と東南アジアは陸続きであり、この地理的な利点を生かした構想が生まれている。その一例が、『中国経営報』2024年6月29日付の記事で紹介された
「グリーン充電回廊」構想
だ。これは重慶市政協委員の周遠征氏が提唱しているもので、中国と東南アジアを結ぶ新しい物流ルートの整備を目指している。
グリーン充電回廊構想は、中国南西部の重慶市から東南アジアの主要国を通ってシンガポールまでを結ぶ陸路の開発計画だ。具体的には、2017年に開通した重慶市をはじめとする中国内陸の都市と東南アジアを結ぶ陸海複合輸送ルート
「西部陸海新通道(西部陸海新通路)」
を利用するものだ。構想では、重慶市を出発し、
・ラオス
・タイ
・マレーシア
を経由してシンガポールに至るルートが想定されている。西部陸海新通道の陸路ルートを整備して、新エネルギー車の海外進出を支援するとしている。