海運最大手マースクが「アルコールランプの燃料」で動く大型コンテナ船を発注 いったいなぜ?
燃料は理科の実験でお馴染みの存在

アルコールの一種で工業製品の製造に欠かせない素材「メタノール」。この物質を由来につくられる最終製品はプラスチックや合成繊維、接着剤、塗料、農薬、医薬品など非常に幅広い。
読者のなかにはアルコールランプの燃料として理科の実験で扱った人もいるのではないか。今、そのメタノールを全長350mもある大型コンテナ船を動かす燃料として使用するプロジェクトが進んでいる。
デンマークに本拠地を置く世界最大規模のコンテナ船社APモラー・マースク(A.P. Moller – Maersk A/S)は2021年8月、メタノール燃料エンジンを搭載した1万6000TEU型コンテナ船を2025年までに最大12隻導入することを発表した。同社の顧客であるアマゾンやディズニー、H&Mグループなどと協力し、国際海運のゼロカーボンソリューション導入を加速させる。
メタノールを燃料として採用し運航を行っているコンテナ船はこれまでになく、マースクは世界で初めてメタノール燃料コンテナ船を運航する企業となる。
このうち最初のシリーズとなる8隻は韓国・造船大手の現代重工業と建造契約を結んでおり、2024年第1四半期(1~3月)の完成を予定。重油焚きの旧型船と代替することで、年間100万t程度のCO2(二酸化炭素)を削減できるという。
船の形を変える

計画されているメタノール燃料コンテナ船は全長350m、全幅53.5mで、従来の大型コンテナ船のイメージとは大きく異なる外観をしている。船員の居住区とブリッジは船首に、ファンネル(煙突)は船尾の左舷側に配置することで、コンテナ積載量の増加を図った。居住区とファンネルを分離することで、港湾での作業効率も向上するという。
主機関はドイツのMANエナジーソリューションズが開発し、メタノールと超低硫黄燃料油(VLSFO)で稼働するME-LGIM 2元燃料(DF)エンジン(MAN B&W 8G95ME-LGIM)を搭載。燃料タンクの容量は1万6000立方メートルで、新たにMANと現代重工、アルファ・ラバルなどのメーカーが共同で開発するメタノール推進システムを採用する。燃料の容量があれば、アジア~ヨーロッパ間の往復をメタノールのみで賄うことも可能だ。船級は米国船級協会(ABS)から取得し、デンマーク船籍として運航することを予定している。
マースクは新船型を導入した場合、コンテナ1個あたりのエネルギー効率が、同サイズの船舶の業界平均と比較して20%向上するとしている。
同社は大型コンテナ船の新造計画発表に先立ち、2021年6月に2100TEU型のメタノール燃料フィーダーコンテナ船を建造することを明らかにしている。建造は現代尾浦造船が手掛け、2023年半ばの完成を予定している。引き渡し後はバルト海航路で運航する。